とある酒場にて
自分に発破をかけるために書きました(^-^;
その少年は酒場で燻っていた。
「いつになったら表に出られるんだ。勢いで話作って放置とか、ふざけてるのか」
それに答えたのは、同じテーブルにいる相棒となる少女。
「まったくよね~。しかもその理由が、貴方の名前が決まらないせいなんでしょ? つまりは貴方のせいよね?」
「僕のせいだって? 相変わらず役に立たない僕だね。大体ね? ストーリーも結末も、第2部の大まかなあらすじまで作っておいてさ。僕の名前が決まらないから書けないなんて、ただの言い訳じゃないか」
「言えてる。あ~あ、早く幸せになりたい」
どこかで聞いたような言葉を吐いた少女は、テーブルに置かれたジョッキに入ったウーロン茶を一気飲みする。
「何を贅沢な事を…。あなた達はそこまでお話が決まっているから、まだいいでしょう? 私なんて死にそうな目にあって、やっとラブラブになるかと思ったら、放置なんだけどな…」
「やっと手に入れた愛しい人との生活が出来るかと思った所で、放置……。このやりきれない思いをどこにぶつければいいのか……。そう言えば、私の名も決まっていないな」
隣のテーブルにいたのは、こちらも黒髪の少女と鮮やかな色合いを纏った青年。
「お前は思いをぶつけすぎだ。お嬢さん、このまま放置されていた方が、幸せかもしれないぞ?」
そう青年に言ったのは、青年の側近。
「う……。確かに。助けられてから、この人に死にそうな目にあわされている気がします」
「おい! よけいなことを言って、愛しい人を惑わせないでくれるか?」
カランカラン…。
と、ドアが鳴って入ってきた2人を見た5人。空気がカチンと固まった。
「あ、あの」
冷ややかな空気にもめげず、声をかけて来た少年を5人が睨みつけた。
「「「「「ああん!?」」」」」
「こわ!?」
新たに入ってきた少女が身をすくめる。
「まぁまぁ」
酒場のマスターが5人をとりなした。
「このお2人は、何か用事があっていらしたのではないですか?」
「はい」
最初の少年に話しかける。
「あなたの名前が決まったそうですよ」
「決まったの! これで外に出られる!」
「甘いな。僕の名前が決まった。それで? タイトルは?」
「あ~、そっちはまだみたいね~」
少年と共にやってきた少女が答えた。
「ほら見ろ。まだ出られないね。さぁ、伝言は終わり? 3日おきに出して貰えてる幸せ者達は、とっとと出てけ」
シッシッ、と手を振る。
「ここは出して貰えない者、途中で忘れられた者のみが集う場所だ。まぁ、あんた達もいつお仲間になるとも知れないね。連載が止まって何ヶ月もたつようなら、喜んで迎えてやるさ」
最初の少年は、冷たく言った。
「何よ! そんな言い方しなくても、いいじゃないの!」
「行こう。俺たちの存在が、彼らの神経を逆撫でするんだよ。伝言は伝えました。失礼しました」
少年は頭を下げると、騒がしい少女を連れて出て行った。
「……良い奴だねぇ。山ほど設定作られていて、この後も恥ずかしい目にあわされ続けるのが、少し気の毒になるよ」
青年の側近が言う。
「それでも表に出ているだけ、僕達よりもましだろう。連載放棄さえ、されなければね」
鮮やかな髪の青年が、視線を酒場の隅に向けた。
「……物語が途中で止まるほど悲しい事はないからね」
視線の先には埃をかぶって、煤けている人影が何体も見える。
「あそこまでになる前に、表に出たいものだね。例え出られなくとも、たまに思い出して貰えればああならずにすむのかな…」
煤けてしまっている人影達は、設定を、世界を作られたのに途中で忘れられた者達のなれの果て。何年も放置され、その世界が止まり、終いには身動きすらも出来なくなった。
「あちらの方々は、確かに何年も放置されています。ですが、フルネームと性格まできっちり作られているのです。機会があれば、表に出る事もあるかもしれませんね」
マスターの言葉に人影はピクリと動いたように見えた。
「名前すらない私達よりも、可能性はあるかも知れないね」
愛しい少女の手を握りながら、鮮やかな髪の青年は言った。
カランカラン…。
再びドアが開き、先ほどの少年が酒場を覗き込んだ。
「あの…」
「なんの用?」
名前の決まった少年が尋ねた。
「今、タイトルも決まったそうですよ。失礼しました」
良かったですね、と言いたげに微笑むと、少年はすぐに出て行った。
「よぉし!! 出られる!」
相方の少女が叫んだ。
「あんた、そんなに死にたいんだ…。まぁいいか。面倒くさいけど、表に出られるのは有り難い。けどさ。主として言うけど、他の人間の事も考えたら?」
「あ…ごめんなさい、皆さん」
少女は他の皆に向かって、頭を下げた。
マスターが答える。
「皆さん、根っこは繋がっているのですから、怒ってはいませんよ。何年も創作から離れていたのに、先ほどやってきた2人のお陰で、表に出す方法を見つけてくれた。つたないとはいえ、書き続けてくれている。その内にこちらも出してくれるかも知れませんしね。そしてあなた方もこれから、こちらとあちらを繋いでくれるのです。表に出ても、たまには顔を出して下さい。彼らも誘ってね?」
「そうね。そうするわ」
「表に出る前に、あんたは性格を戻しておけば? 最初はもっと素直だったよね」
「誰のせいでこんな性格になったと思っているのよ!!」
「主のせいにするとは、恐ろしい僕だよ」
賑やかに2人は出て行った。
「私達はいつ出られるかしらね」
「気長に待つとしよう。愛しい人」
「いや、お前は今のうちに『待て』を覚えておけよ…」
煤けている人影達も、心なしか期待しているように感じられた。
作中にある通り、性格の悪い少年が出て来るホラー作は、近々投稿できそうな気がします。年末にお話が出来ていたのに、どうしても少年の名前が決まらず、決まったと思えばタイトルが出て来ない。やっと決まったので、細かい所を煮詰めて投稿しようと思います。
もう一方は場面しか浮かんでいないので、世界観・ストーリー・人物設定等々、決めなくてはいけない事がありすぎるラブコメディー。いつになるか分かりませんが、そのうちちゃんと出してあげたいです。
そして忘れられている登場人物たち。古いファイルに設定が山盛り。今の自分がどう生かせるか分からないけれど、自分が生み出した子供達。生かしてあげたいなと思っています。
3日おきに連載投稿している作品の2人も出てきました。連載を止めないように、気合を入れて頑張ろう!