1.二人の少年
「兄ちゃん……?」
少年の声。恐怖に震えた弱々しい声が、部屋の中を漂って消えていく。
「ごめんな」
謝罪するもう一人の少年の声は、悲痛に歪んでいた。少年の手に握られた鈍色に輝く日本刀が、暗い室内に僅かに揺らめく。
「何すんだよ……。それ、刀じゃねえかよ。何で、俺に向けてんだよ……」
「おまえが死者になるなんて、僕は嫌だ」
覚悟と決意のこもった目で、少年は刀を構える。自らの弟に、静かにその刃を向けた。切っ先を向けられた少年が顔色を変える。
「やめろよ。俺は、生きてる。やめてくれよ、兄ちゃん」
「ごめんな。すぐ終わる。終わらせるから」
刀が少年へと迫る。恐怖に竦んだ少年は、身動き一つ取ることすらできなかった。
「恨むなら、好きなだけ恨んでくれて構わないから」
その言葉を言いきって、少年は刀を突き立てた。弟の、左目へと向かって。弟の口から獣の咆哮に似た叫びが溢れる。その声はやがて途切れ、弟は気を失ってしまった。少年の顔は悲痛に歪んだまま、倒れ伏した弟を見下ろしていた。
「ごめんな」
その呟きを、彼の弟は聞いていただろうか。気を失った少年の耳に、兄の悲痛な声は届いたのだろうか。
室内は相変わらず暗いまま、二人の少年を静寂の闇の中に閉じ込めていた。




