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13.穴穿つ恐怖
「はあっ、はあっ。……くそっ」
鏡矢は、自身の腕に幾つもの穴を穿っていた。腕を切り落とすということが、どうしてもできなかった。
隻腕になれば、事情を知っている杏凪はもちろん、大雅にも心配や迷惑をかけるだろう。問い詰められもするだろう。学校にも満足に通えなくなるかもしれない。そして何より、生ける屍となって彷徨う奴らを殺すことができなくなる。それは結局、家族と大切な人間を守れなくなることも意味していた。
死者になることの恐怖を、鏡矢はその瞬間に痛感した。それでも、腕を切り落とす決心がつかなかった。つかないまま、腕に穴を開け続けた。血は流れ続けるのに、自分も死者になることを止められない。身体の一部を失くしているわけではないからだ。
力が抜けていくのを感じた。槍が、手から離れて落ちる音を聞いた。鏡矢の意識はそれきり途切れ、視界は黒く塗りつぶされた。




