11.宇賀条鏡矢
生ける死者を、死へと還す。それが、宇賀条鏡矢という少年が人知れず行ってきたことである。祖父母の遺品の武具を使い、目が合った死者をひたすらに殺していくという、およそ少年がやるには荷が重すぎることを鏡矢は独りで行ってきた。
幼馴染みである李都が死者になったとき、幼かった鏡矢は決意を固めた。身の回りの人間に危害を及ぼす恐れのある死者を全て殺そう、と。そのために身体に刻まれる傷など、ほんの些細なものにしか思えなかった。周囲が平穏であるならそれでよかったのだ。
しかし、あの日が訪れてしまった。
大雅が死者に見入られ捉えられたことには、帰ってきた彼を見てすぐに気が付いた。赤く染まった左二の腕が、死者に捉えられたことを突きつけていた。だからこそ、鏡矢はすぐに行動に移した。そのせいで弟の目は永遠に失われ、鏡矢にとっては重大なことが残った。自分がこれまで倒してきた死者数は何だったのかと、そう思わずにはいられなかったのだ。もっと死者を倒さなければと、責め立て、駆り立てるしかなかったのだ。
だから、傷の癒えない弟を杏凪に任せ、夜の町へと飛び出した。死者を殺すために。祖母の蒐集物の中から、一振りの槍を選んで。
まさか自分自身が死者に摑まってしまうなど、鏡矢は考えていなかった。




