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10.凍りつく安堵
杏凪が去った病室に残された大雅は、目覚めない兄を見下ろしていた。
何故、兄がこうなってしまったのか。その疑問を誰にぶつければいいのかわからなかった。杏凪は何か知っているようだったが、答えることなくこの場からいなくなってしまった。
鏡矢は何か無茶をしていたのだろうか。喧嘩ばかりで問題児の自分と違い、鏡矢がそんな無茶をするなど考えられない。
「兄ちゃん、どうしてこうなったんだ?」
問いかけに答える声がない、その事実に湧き起こった恐怖。呆然とする自分は、一体何ができるだろう。自分はどうして無力なのだろう。たった一人の家族さえも救えないことが、こんなにも悔しいものだということを、大雅は痛いほどに感じていた。きっとあのとき、兄も同じ痛みを感じていたのかもしれない。
「兄ちゃん?」
兄の指が、小さく動いた気がした。大雅の顔に安堵の表情が浮かぶ。しかし、その表情はすぐに凍りつくこととなる。鏡矢と大雅の目が合ったその瞬間、大雅は普段の鏡矢との違和感に気が付いた。
それは、目を失ったあの日と、似たような感覚をしていた。




