表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きになるはなし  作者: 雲雀 蓮
繰り返される事象
7/70

六本目



ここ数日をずっと繰り返している。

その原因はわたし、咲希である。


愛している兄を失いたくないというだけで。

徒に時を巻き戻している。

なぜか、毎回惨殺されてしまう兄のためだけに。



体にたくさんの穴を空けられ、血が出て。

ぴくぴくとかろうじて動いている兄を引きずっていく黒い影。

わたしが盾になって防ごうとしても、必ず兄がわたしを庇って死ぬ。

今のところ突破することは不可能である。


しかし、あの道を通らないという案はそもそもない。

あの道以外に、村の外へ出ることはできないから。



「いただきます」



味を感じられないまま朝食にありつく。

お腹が空いているのかどうかすらよくわからない。

温かいお味噌汁の香りが鼻孔をくすぐる。

今日はわたしの好きななめこのお味噌汁だ。



「・・・・・・(ふぅ)」



お母さんが作ってくれる特製のお味噌。

いつも通りの味がわたしを落ち着けた。


なんだかこのお味噌汁を飲んだのが久しぶりに感じる。

たった一回のループ。

巻き戻すのに払う代償を思い出し、体が震える。


兄が死んだあと、わたしも死ぬことになる。

わたし自身の命が代償として払わなくてはいけないものだからだ。

しかし、わたしの死に方は兄とは違いきれいだ。

傷一つ残っていない状態なのだ。



この村にはいくつかの伝説がある。

由来やその存在を説明しきるのはなかなか難しい。

授業で取り上げられるのは、絶対守らないといけないものばかりだ。

他の細かいものは村長だけが個人的に覚えるようになっている。


男の双子は忌子だから片方を村の神様の元へ預ける。

人間として欠けたものが似通っている二人は惹かれあいやすい。

女の双子は片方が神と交信する巫女とされ、片方はお社に身を置かねばならない。

村長以外の村人が村の外へ出るときは、村長の許可が必要。

村で亡くなったら、埋葬した上に苗木を植える。



それぞれ前に起きた多くのことを元に作られている。

その中でも特に双子に関するものは多い。

この村では双子が生まれる可能性が高いのだ。


数年を周期として、一組。

人口が一万もいかない程度の小さな村なのにも関わらず、だ。

その中でも男の子の双子が生まれる確率は女の子のより高い。

お兄ちゃんも双子だった。


もう一人、お兄ちゃんがいたのだ。

もう居ないけれど。


お母さんはどうしようもなく悲しんでいたらしい。

泣く泣く、片方を村長に渡した。

それを見かねた、出産日が近かったとあるおばさんが提案してきたのだ。

「私の子は一人っ子だから、似たような名前をつけないか」と。

まるで双子のようにしないか、と。



おばさんの息子が村長の息子だ。

兄が明樹、村長の息子が春樹。

二人ともどこも似てはいないけれど、この名前があることでお母さんは落ち着いた。

少なくとも毎日泣いて暮らすことはなくなったのだ。



「あ、もう時間だ。咲希行こっ!」

「ええ!?まだお味噌汁飲みきってないー」


「あら咲希ってば困った子ね。大丈夫晩御飯用にも作っておくから」

「ありがとうお母さん!行ってきます」



半分ほど残ったお茶碗を残し、慌ただしく外出の準備をする。

学校に行かないといけないのだ。


雑に使いすぎてボロボロのカバンをもって。

そこそこ気に入った長袖の服を乱暴な手つきで着る。

大き目の鍔のついた帽子と、サングラスを身に着ける。


外に出れば兄がわたしを急かす。「遅刻しちゃう!」と。


悠長だってわたしも思う。けれど仕方のないことなのだ。

今の状態では、逃げることを発案することもできない。


毎回毎回、逃げるタイミングというのは変わらない。

巫女と呼ばれる女の子が何故か殺されるのだ。

そして頭が真っ赤に染まる頃、わたしにとってのチャンスは訪れる。

村人が全員巫女のことに夢中になるためだ。

誰もわたしたちを気にかけることはしない。



学校(といっても見た目は民家)に向かう途中繋がれている手。

温かいその手がわたしをどうしようもなく喜ばせる。

ただちょっと触れているだけで、こんなにも幸せなんだ。



わたしは、明樹が、大好きなんだ。



ブラコンといったものじゃない。

本当に、異性として見ての「好き」。

今まで気づかなかった部分だ。


最初に明樹が亡くなるときに漸く気づいた。

身を挺してわたしを守る姿が痛々しくも、逞しく見えたのだ。


悲鳴を押し殺して、わたしを守り。

時々押し殺せなかった悲鳴が、わたしに聞こえてきた。

そして、彼の頬から流れてくる涙がまるで雨のように降り注いできた。


その光景だけで、わたしは彼に好意を抱いた。



いつもはへらへらしているのに。

あんなときだけ、かっこよく見えたのだ。

不謹慎なことだけれど、吊り橋効果だろうと推測する。


気づいて以来、まともに見れなくなってしまった。

顔を見ただけで触りたい欲求にかられる。

ううん、触ってもらいたい。優しくされたい。

・・・ずっとそばにいたい。


なんか、嫌だ。

自分ばかり求めている。


本来の目的を思い出そう。

わたしの目的は明樹と結ばれることじゃない。

彼を死なせたくない、そっちだ。


他は決して考えてはいけない。近親相姦は厳禁だ。



「・・・・・明樹、」



なぜ、だめなのか。散々本で調べた。

近親相姦によって生まれてくる子供に問題が生じるという話もあったし、

三大欲求である性欲を簡単に満たすことを知ってはいけないというものあった。

手近にあるがゆえに、禁忌とすべきなのだと。


今手にある、この温もりを手放さなければならない日が訪れる。

それは一体何時なのだろうか?

それは拒否してはいけないのだろうか?



苦しい、辛い。

何もなくても涙が出そうだ。


これを人は恋というのだろうか。



だったらこれは、わたしにはとても敵わない。

まるで、地獄のようだ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ