六十六本目
村の外に出ようとしても、出られない。
その事実を知ったのは、この世界も同じだった。
残念なことに、その後私が死んでしまったので覚えていられなかったけれど。
「な、なんだこれ?」
春樹が村の境を示すロープをまたいだはずなのに、体は村に向かっている。
その謎の現象が起きたのだ。
「・・・うそ・・・・」
なんで、出られないのか。
それを考えたら答えは簡単だった。
遙香だ。
あいつが何かしたんだ。
村の外に出られないように。
まるで呪いの様に。
「どうしたら、」
そう言った私の声に繋がるように、彼の手がこちらに伸びた。
しかし、その手は空ぶった。
私の足が何者かに引かれて、地面に叩きつけられたからだ。
「っきゃ!」
何だ、とそれを見た。
そこにあったのは黒い触手のようなものだった。
先の方に申し訳程度についた人間の手が見えた。
それが私の足を握っていたようだ。
その手は自分と似通った、何もしていない手。
いつも見てきた、あの綺麗な白い手だった。
「これ、冬華の手、だ」
私の足は掴まれ、村の方に引きづりこまれる。
”災厄”によって村に戻されているのだ。
そのことに気づく前に本を春樹に投げた。
「逃げて!」
「でも!出られないんだぞ!?」
「それ持ってれば、きっと大丈夫」
確信と言うまでには、強くない。
確率的には半々だろう。
あの本が封印していたという、事実。
それはずっと変わらずあのお社の中で存在していたのだから。
ズリッ、
「っ、一つだけお願いがあるの」
黒い影に引きずられて、口の中に少しだけ土が入る。
顔面が地面と接した状態で引かれているので勿論怪我もしている。
でも、それよりも大事なことがある。
「その本、大事にしてね」
私の代わりに、なんて言わなかった。
言えなかった。
だってそれを言うには、彼への好意を感じさせられなかっただろうから。
彼にとって私はただの口の悪い女。
ズリズリと引きずられる中、黒い靴が村の外へ出たのを見た。




