六十五本目
茫然と座り込む春樹。
その眼前には火の塊が近づいてきていた。
「あんたはずっとここにいるつもり?」
心底呆れたような雰囲気をまとって訊いた。
すると彼は力強い目をして、私を見た。
「君は、一体村をどうするつもりだ!」
声や表情は強気だが、腰が抜けてしまっている。
強さと弱さを兼ね備えた状態の彼の問いかけに少し考えた。
元から村長は殺すつもりだった。
彼はこの村の頭だ。
彼さえいなければ、事は簡単に済む。
その後は考えていなかった。
どうしよう。
どうしたら、彼は外に自発的に行くだろうか。
「・・・燃やすの。跡形もなく」
帰る場所をなくしてしまえばいい。
どうせ、このまま全て燃えてしまうだろう。
「うそつき」
彼は怒るわけでもなく、そう言った。
「本当はそんなことしないくせに、なんでそんなウソをつく?」
「嘘じゃない、本当に燃やすの!さっき見たでしょ?
あんたのお父さんみたいにこの村を燃やすの!それが私にはできるの!」
捲し立てるように一息で言い終えた。
あまりの焦りで、頭に酸素を回しきれなかった。
足元がぐらぐらする。
疲れたからため息ついでに深呼吸をする。
「僕と一緒に、村の外に出てみないか?」
「は?」
「この村の外に、出てみないか?」
彼の目に涙はなかった。
彼の父親が死んだのに。
その代り、狂気が混じったような黒い瞳。
口元を見れば笑おうとしてひきつっている。
「どうせ、君も行くあてなんてないんだろう?
この村に愛着がないから、そんなことをするんだろう?
だったら俺と一緒に外に出よう、」
言い切らない内に、私の手をつかんで引っ張る。
意味が分からない。
どうして私を連れていくことを考えた。
私が自分を殺すと考えていないのか?
私をつかんだ腕が震えていることに気付いた。
抵抗しているから、それを押さえつけるためかとも思った。
しかし、体力が尽きておとなしくしている今も震えている。
「あんたって、ほんと馬鹿」
彼の手は、誰かを求めていた。
きっと誰でもよかったのだ。




