64/70
六十二本目
「冬華?」
顔を上げて彼はそう問いかける。
見えない誰かに向かって。
天高く伸びるような木々に向かって。
「冬華、」
そう言って彼は歩き出す。
合わせて私もお社に戻りだす。
彼よりも先回りできる自信がある。
なぜならばここは何度も歩いた道だから。
近道も遠回りも、自分の体力も、ちゃんとわかっている。
だから絶対に彼よりも先にお社にたどり着ける。
「っ冬華!」
勢いを付けてお社の扉を開く春樹。
すでに到着していた私は、冬華の格好をしてあの本を抱えて待っていた。
遙香と樹の出会いとも言えるあの話が書かれている本を。
そして笑う。
にこり、と。
「・・・・君は、誰なんだ?」
彼は困惑したようで、眉根を寄せていた。
気づいたのか。
なんで、なんて言わない。
彼は確実にわかってくれるのだ。
ずっと前から気づいていたのかもしれない。
そもそも村長の息子なんだから、知っていて当然かもしれない。
そう考えて、またふっと笑った。




