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五十六本目
「この村にいる限り幸福にはなれない。
たとえ命を失っても、木に自分の魂を移し替えても」
彼に対してだけは真実を語っていたと思う。
悪態に関しては嘘ばかりであると言えるが。
ひとしきり聞いて彼はため息を吐く。
「だから、お前はどうして」
初対面の時のような余所余所しさは消えた。
今の春樹のようなとがったような口調。
それが彼の本当の言葉なのだろうと思うと嬉しかった。
ばたばた、と規則的な足音によって春樹は言葉を止めた。
それは村長に他ならない。
村長である彼の走り方は何時だって同じ。
だから聞くと少しで彼であると村の人全員が分かるのだ。
「これは、これは巫女様。愚息がご迷惑を」
「いいえ、別に」
彼の発見によって冬華が死ぬ。
それはこの時点では気づいていた。
しかし彼が黒幕(に近い立場)であることは分かっていなかった。
そのため口をとがらせて、むっつり顔をする。
勿論村長に向けてじゃない。春樹にたいしてだ。
この日、男の双子が生まれた。




