五十三本目
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本当はあきらめたくなんてなかった。
自分の死なんて認めたくなかった。
でも彼女の涙を見て、何か別の自分が見えた気がしたんだ。
みんなが死んでしまったのに、一人生きている自分が。
気の所為だって思いたかった。
あの自分は存在していないのは、今の自分が知っているのだから。
「どうしたの、春樹」
「・・・いやなんでも」
「ないなんて言わないでよ」
「・・・・・・・・・・・・」
心配そう、と言うよりも怒った調子の彼女が顔を覗き込んでくる。
仕方なしに今しがた考えたことを告げると、悲しそうな顔に変わる。
そうなると判っていたから言いたくはなかったのに。
「その時の記憶、多分あるよ」
「覚えているのか?」
「うん、おかしいよね。私だって死んじゃったはずなのに」
「・・・・俺のせい、でか?」
「違うよ」
きっぱりと否定した後、加えて彼女は言った。
「聞きたい?」
きっと惨劇の一つなのだろう。
聞くか聞かないかは、俺の自由。
判断は俺にゆだねられているのだ。
彼女もそうあるべきだと。
無理に傷口をえぐる必要なんてないのだから。
でも俺は、聞きたい。
彼女の背負ってきた重い何かを。
その一欠片だけでもいい。
そう、今は。
「聞かせてくれ。ゆっくりでもいい。時間は沢山あるのだから」
そう言うと、眉根を寄せている彼女は口だけで笑った。




