五十一本目
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ぼんやりした頭で村を見た。
木の伸びていく風景は、圧巻とでも言えるだろう。
「・・・・はぁ」
お社から出ることを諦めてしまったから、退屈だ。
物質を通り抜けることが可能だから、「出る」のは直ぐにでもできるけど。
そうじゃなくて。
どうせ、外に出たってなにもないから。
何もないって知ってるから。
「これが、遙香の見てた世界、なのかな」
悪魔、と彼女は自称していたが、本当は違う。
煩悩でなければ、悪霊と言うわけでもない。
ただそこに魂が残ってしまった、それだけだ。
何か現世に強い思いがあったわけじゃない。
体から離れることがうまくできなかった。
彼女も彼も、いつか天に昇れるように旅に出た。
でも私は。
別にどこにも行きたくない。
だって、どこに行ったってのけ者扱い。
いままで守ってくれた冬華もいない世界なんて行きたくもない。
「おい、」
うなだれた頭の上から声が掛けられた。
男の子の声。聞いたことある声。
「春樹、?」
「これは、どうなっているんだ?」
「どうもこうもないよ、全部終わっただけ」
「終わった、ってどういうことだ!あいつらはどこに行ったんだ!」
死んだ後も元気な彼。
どうして死んだって感じに。
いやまぁ、出血死なんだろうけど。
死にきれなかったのは、私だけじゃなかったのか。
仕方がないから、私の知っていることは話した。
春樹は死んじゃったこと。
私は自分の命と一緒に”巫女”の力を全て使って”災厄”の働きを止めたこと。
みんなは村の外に逃げていってくれたこと。
「なんだよ、それ・・・意味わかんないこと言うなよ・・・」
理解できなくていい、そう口が言いかけた。
でも理解してもらえなくては、この先どうしようもないだろう。
永遠にも近い時間を、漂わなくてはいけないのだから。
遙香と樹は遠い昔の人間だった。
つまりその分くらいはこの世界にいることになる。
それ以上の時間かもしれない。
気の遠くなるような時間、一人でいることになる。
「お前は、どうするんだよ」
「・・・え?」
「お前は、これからどうするんだ?」
私は、ずっとこの場所で朽ち果てるのを待つつもりだった。
せめて冬華がこの世を去るまでは、と。
「ずっとこんなとこにいるつもりなのか?」
生きていた時と同じように、ずっとここで一人で居ようと。
耐えられると、思っていた。
「あ・・・」
涙がこぼれてきた。
死んじゃったから、もう生理的なことはないと思っていたのに。
ぼろぼろ、と目から落ちていく滴は、実体こそないが重みはあった。
耐え切れるわけない。
みんなと一緒に居られたあの時間があった分、「孤独」の辛さを思い知ったから。
一日も離れていないはずなのに、こんなにも寂しい。
「・・・・その、悪かったな。碌に話も聞かないで、さ。
でも今度は違う。ちゃんと聞いた。それに考えた。
お前は虚実を言っていない。
でも自分に嘘はついている。違うか?」
立って私を見下ろしていた彼は片膝ついて、私に手を差し出した。
「行こう」
「どこに?」
「さぁな。テキトーに」
「行きたくない」
「嘘だ」
「ほんと、だもん」
「僕が一緒に行ってやる。ほら、行くぞ」
もうやだ、こいつ何様だよ。って。
俺様か、なんて思って笑った。
私こんな馬鹿好きだったのか。
私も大概馬鹿だったのか、見る目がなかったんだな、と思った。
「また、みんなに会えるかな?」
「会えるだろ。だって、それがお前にとっての幸福なんだろう?」
「?、うん」
「だったら運命ってやつで叶う。遠い未来かもしれないけれど」
そう言って、春樹はニカっと笑った。




