五十本目
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「おかーさん?どうしたのー?」
「ううん、なんでもないよ。昔のこと、思い出しちゃったの」
小さな小さな手を握って安心させる。
あれから村に戻っても、いや「村のあった場所」へ戻っても桜花には会えなかった。
そもそも村が何処に在ったのかも分からないほどになっていた。
村は完全に木に食いつぶされて、森になっていた。
あの後一山、二山越えたところにあった町にたどり着かなかったら。
今のこの生活はないのだろうと思う。
家族ができて、また平和な生活を手に入れられた、今の生活は。
もう会えない大切な妹。
いや、姉だったのかもしれない。
彼女は今どこにいるのだろうか。
今私が幸せに暮らしているのを、彼女はみているのだろうか。
だとしたら、彼女にも混ざって欲しい。
あの時の様に肩をつかんで教えてほしい。
『私はここにいる』と。
「おかーさん、これしょうみきげん今日だよー」
「あら、ほんと?じゃぁ食べちゃいましょうね」
そうすれば、今度はみんなでここにいられるから。
ずっと、ずっと。
愛しい人ばかりの生活が営めるはず。
あの兄妹も今は結婚して家族となっていた。
明樹の方はあまり乗り気ではなさそうだったけれど。
やはり家庭というものがあった方が仕事をする上で楽だと言っていた。
家事などは彼ができない、と言っていたからそのせいだろう。
咲希は心底幸せそうに笑っていた。
彼女の願いは全て叶った。
その分後で都合の良さにおびえやしないかと危惧されているけれど。
(主に私と明樹から)
でも数年たった今でも彼女は幸せを享受している。
このままでいいのかと、
なにも解決なんてしていないのではないかと。
そんな私の不安を全て弾くように世界は回っていく。
時間はいつも私を引っ張っていく。
気持ちだけはずっとあの時間のあの場所にある。
いつまでも、あの愛おしい姉妹の傍に子供の頃の私は在り続ける。




