四十八本目
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気がどこまでも遠のく。
冬華と咲希ちゃんと明樹君は無事だろうか。
何も考えずに、何も教えないまま彼らと別れてしまった。
彼らはきちんと村の外へ出れただろうか。
このまま村にいたら、孤立した世界に取り残されてしまう。
気づいて外に出てくれればそれでいいのだけれど。
彼は、村長として生きられなかったあの男の人はどうしただろうか。
名前を訊きそびれてしまった。
彼の目的は村人全員を消すこと。
全てを”災厄”に取り込ませて、自分だけの世界でも構築する予定だったのだろうか。
今ではわからないけれど。
もしあれが、昔”災厄”いや、本当の名前は『さいわい』かな。
あれを作った男の人の願いを代わりに叶えようとでも思ったのだろうか。
彼よりもずっと「感情を理解している人間」に、できることなんてないのに。
彼───樹さんはどんな苦しみの中に居たのか。
私には知る術がないけれど。
きっとこの世が地獄に思えたのではないだろうか。
・・・私と同じように。
同族が、仲間とは思えなくて。
本当に同じ、似た存在だという事実が疑わしくあった。
味方なんていなくて、ただひたすら辛いだけの人生だった。
そんな中見た世界に対して、憎しみこそあれ、愛なんてない。
それでも、守ってしまったのはきっと春樹のせいだ。
彼がこの世界を愛していたから。
彼の愛していたこの場所を守りたい、と思ってしまった。
遙香は完璧に同じことを思っただろう。
でも樹さんは、もっと簡単な思いだったはず。
遙香とその姉が抱いていてくれた、好意を知りたかった。
彼女らと同じ思いを返してあげたかった。
そんな健気な願い。
叶えるための手段が『さいわい』だったのだろう。
ジョバンニのように、探していたのだ。
恋は人を幸せにするから。
そういう話を聞いたり見たりしたのだろう。
彼はどこまでも純粋で、健気だ。
ってなんで、会ったことのない人の記憶があるんだろう。
だって、彼はもう死んでいて。
会うことなんてできなかったはず。
そう意識がふ、と浮き上がった。
「あれ?」
私は死んでいなかった。
いいや、地面から浮いてはいる。
でも意識ははっきりしている。
しかもここはお社の中のようだ。
誰もいないあの小さな小屋。
あれれ、なんで。
がたた、きぃ。
もとからボロな扉の開く音がする。
「桜花!どこ!」
冬華だった。
涙をぽろぽろとこぼして、私の名前を呼んでいる。
必死そのものの顔には疲れが見えた。
「桜花、桜花!」
お社の外周りにも叫びつつ、私を探している。
みえて、いないんだろう。
ここだよ、って言いたい。
言っても無駄だってわかっている。
でも言いたい。
私はここにいるんだよって。
見つけて、って。
「桜花、・・・・どこに、どこにいるの!」
冬華ここだよ。
私、ここにいるの。
手を伸ばせば届く、ここに。
触れても、わからないかもしれないけれど。
ここにいるの、確かに、ここに。
「桜花」
人生でこんなにも名前を連呼されたことはない。
そのせいで、涙が出てくる。
私は、ちゃんと存在していたんだって、分かったから。
『冬華、』
「! 桜花!?どこ、どこにいるの」
聞こえた!
私の声に反応した様子を見せた冬華を見てそう感じた。
でも違った。
風に押し倒された草木の悲鳴に冬華が反応しただけだった。
後ろを振り向いてしまった冬華。
どうせ触れないだろうと思って、その背中に手を伸ばした。
さわ、
「・・・・・え」
背中に触れた瞬間、その手を振り払うかのように冬華が振り返ってきた。
力点は手首から先、支点は打点、作用点は私の体(回転運動)。
なにこれ目が回る。
「・・・・・なにも、いない・・・?でもいま、何か触れた?」
困惑した顔。
私もきっと同じ顔をしている。
え、え、え?
幽霊って定番として触れない存在だよね?
なんでいま、触れたの?
もう一度、できるだろうか。
今度は掴んでみよう。
肩をつかんで、私の方を向かせてみよう。
そう決めて、こちらを向いて混乱している冬華の肩をつかんだ。
「ひゃあああああああ!!!??」
掴めちゃった、割とがっつり。
ええええええ??




