四十七本目
桜花、桜花。
どこにいるの、返事をして。
そう言いたくなるのをこらえて、村の外へ向かった。
お社に私一人で行く前提で、彼らと一緒に歩いた。
彼らは自分のことだけで精いっぱいだろう。
少しの間一緒にいるだけで、きっと油断する。
私のことを気に掛けなくなる時間が必ずやってくる。
一回きりのチャンスを捨てないようにしなくては。
山道を歩くのはあまり得意ではない。
傾斜がそんなにない、この道も私にとってはつらい。
外を歩き回るようなことは今までそんなになかったから。
農作業だってしたことない、甘やかされ続けたお嬢様だから。
桜花だったら、こんなことにならなかっただろうか。
あぁ、どちらにせよそこまで体力が付かないのは分かることだ。
「冬華さん、大丈夫ですか?」
「平気よ、気にしないで。これくらい全然へっちゃらよ」
言葉少なに拒絶を表明する。
辛い、苦しい。
そんな弱音を吐くことが嫌いだという生来の性格と、罪悪感。
桜花はもっと・・・・もっと大変だったんだ。
こんなの比じゃないくらいに、生きているのが奇跡だったんだ。
庇うために触れた桜花の体は華奢で、まるで骨と皮だけの人形のようだった。
筋肉がいくらかついているようだったけれど、それなりだ。
人間らしい肉付きが見当たらなかった。
ぷにぷにしている自分の二の腕を恨めしく思うほどに。
この分の肉を切り取って焼いたものを、食べさせたらよかったのではないか。
そう思ってしまった。
傷から発せられている痛みと戦っている時思ったのだ。
死に間際の考えだったが、それが今でも正しく思えてしまう。
いっそ”巫女”という権力を行使して、彼女と同棲すればよかった。
そうすれば、何でもしてあげられたのに。
何でも叶えられていたのに。
姉としてではなく、妹として甘えることも、愛することも。
私は、卑怯者だって、真実を吐露することもできたかもしれない。
それができなかったから、こうなってしまったのだけれど。
「・・・ちょっと休もうか、」
「うん、ごめん」
「・・・・すぐそこに川が流れているわよね。
そちらに寄ったほうがいいかもしれないわ」
少しだけ、誘導を行う。
先ほどの男性は、押しても引いても動かなかったので置いてきた。
彼はこれからどうするのだろうか。
おそらく彼は、生きることに恐怖してしまったのだろう。
人間が罪だと思うことに対して潔癖な人だから。
私たちは村の外へ行く前に、必要なものを見繕って持ってきた。
ナイフや水筒など、生きるために必要そうなもの。
火を起こすものが何かないかと探したけれど、見当たらなかった。
あまり火を持ち歩くという必要性がないからだろう。
仕方がないので、ナイフと水筒だけ持って歩き出したのだけれど。
それはそうと、村を出た時ふと振り返ってみたのだ。
すると村は段々と木の根が伸びてきていて、集落が侵食されていて。
それはまるで、
まるで村が木に食われていくかのようだった。




