四十六本目
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まるで空が塗り替えられていくよう。
黒に染まっていた空は時間が進んでいき、青に、赤にと色を変えていった。
本当に時間の流れがおかしくなっていたのだと思わされた。
何日も何日も進んでいき、大地からは新しい芽が頭を出した。
「・・・すごい」
腹部の血は止まり、傷口も徐々にふさがっていく。
体も老いてきたようにも思える。
手と顔に少しばかり皺が現れてくる。
そして、家からは木の枝が伸びてきている。
「村の外へ行こう」
明樹がそう、言った。
もう春樹はいない、桜花もいない。
だから目の前にいるのは明樹と咲希と、あの男の人。
村長の双子。上か下かは分からないけれど。
彼はもう自分で動かなかった。
叫び疲れたように、その場で四つん這いになっていた。
彼の復讐は、気が済んだのだろうか。
”災厄”に取り込まれてしまった村の皆。
元に戻す方法も、助け出す方法もわからない。
なぜか急に彼の思うようにも、黒い影も動かさない
”災厄”だけがこの村に残された。
時間だけがただ無情に過ぎていく。
元の時間まで早送りしていく。
村の荒廃を眺めていく私たちは、成す術がない。
「どうなるかわからない村の中にいるより、別の場所へ行こう」
という意味なのだろう。
確かに正しい。
自分の命を守るという意味では。
「私は、ここに残るわ。貴方たちは外へ出なさい。
それが望みだったのでしょう?」
私はもう生きる意味がない。
桜花が死んでしまったのに、私は生き残ってしまった。
桜花の言っていたように「私が先に死んでしまっていればよかった」のに。
本当ならば、私が”贄”で、桜花が”巫女”だった。
私は”巫女”と呼ばれてきたけれど、神の力を行使したことは一切ない。
きっと村の人たちが間違えたのだ。
間違えたまま、今まで過ごしてきたのだ。
気づいたのはきっと私たちと、この男だけだ。
だから真っ先に私を殺してきたのだ。
”巫女”の枷となっている”贄”にある少しの力を。
”巫女”の力を制限するものを破壊するための力しか”贄”は持たない。
殺せば、自動的にそれは”巫女”へと移り、制限を取っ払う。
それがこの村にもともと存在している大いなる力の仕組みだ。
あの物語にあったように。
だから、”巫女”と”贄”は生かされる。
「冬華さん!」
「いいのよ!・・・っもう、いいの」
私に価値はない。
今まで欺いてきた罪に苛まれた今のまま、死なせて。
違うって分かったのは物心ついてから。
力を感じない、使えない。
そう思った後、桜花に会って分かった。
桜花には私にはない力があった。
桜花は勉強というものを今までしたことがなかった。
村のことも満足に知らなくって、何も知らないまま小屋に入れられていた。
だから、それを利用した。
今更桜花の立場に立つことに対して恐怖をしてしまったのだ。
桜花には申し訳なく思って、いろいろしてきた。
罪滅ぼしに、だ。
でも桜花が本当に望んでいたことは何もできなかった。
おいしいご飯も、温かいベッドも、みんながしているような勉強も。
優しい両親も、居心地の良い家も。
何もかも奪って私は生きていた。
それがどうしようもなく私の心を削っていた。
今回のことはとてつもないチャンスだと思った。
私が死ぬことで桜花が”巫女”であると判れば、あの扱いはなくなる。
・・そして私が辛い思いをすることなく死ぬことができる。
どこまでも厚かましく、汚い。
こんな自分が嫌いで嫌いで、憎い。
だからこのまま死んでしまえばいい。
そう思う。
「もう、桜花はどこにもいない。私が生きている必要は・・・どこにも」
ぱんっ
頬に走る痛み。
咲希が私の頬を平手で打ったのだ。
自分の頬を涙まみれにして、彼女は私を怒った。
「あんたの所為で、桜花さんは死んだのに!
なのに、なんであんたは自分のために自分を殺すの!?
あんたみたいな馬鹿な人殺しが自分の意思で死んでいいわけないでしょ!
地べたはいつくばってでも生きてよ!
桜花さんが望むまで、勝手に死のうとしないでよ!!」
泣きながら、でも一生懸命に。
そんな彼女は本当に桜花の代弁をしているかのようだった。
きっと桜花は優しいから、こういってくれたんだろうなって。
『冬華は生きて』
『私の分まで、沢山、長く生きて』
この世にあったはずのあの温もりは、どこへ行ったのか。
お社に行けば、見つけられるだろうか。
村の一番外側にある、あの小さな小屋に行けば。
わからない、ならば見に行こう。
本当に彼女は私の生を望んでいるのか、いないのか。




