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きになるはなし  作者: 雲雀 蓮
本当の××××
46/70

四十五本目

**



正直驚いた。

姉と言うからには、あたしの姉の様に非情な存在だと思っていた。


でも、冬華は違った。

今まで先入観だけで敵対視していたけれど、勘違いだったようだ。

文字通り命がけ、体を張って桜花を守った。

子を守る母の様に。


あの姿を見てどうしようもなく哀しくなった。


あんなことをしてくれる人に会ったことがないから。



『・・・・うん、これで大丈夫』



彼の亡霊ともいえる存在を連れて、××××の働きを止めた。

いいのか、と言う目で見つめると、彼は頷いた。



『俺の、不始末は自分で何とかすべきだろう』



彼の声は生きていた時とは違ってどこか不鮮明だ。

本当に死んじゃったんだなぁ、と思う。

あたしと彼はこの世にいるはずのない存在だ。

これが終わったら逝かなくてはいけない。


そう思って彼の手を握った。



「ごめんね、」



彼の名前を呟く。

大好きだったその名前は、もうあたし以外に知らないし呼ばない。

呼ばれた彼は少し口角を上げて言う。



『いや、俺の発明の所為でこんなことになった。

 研究者は理論や正確性だけでなく、悪用についても考えていなければならない。

 それはダイナマイトの発明から学んだはずだったんだ』



眉間を揉んでほぐすようなしぐさをする彼。

それは生前からの彼の癖だ。

難しいことを考えるとき、難しい独り言と一緒にやるんだ。

その時の顔は平時の何倍もかっこいいのだ。



「・・・よくわかんないけど、行こー?」



あたしたちはまだすることがある。

あたしたちが立ち止まってしまうと、他の子が詰まってしまう。



『あぁ、すまない。

 ダイナマイトの話はまた後で、な』



ふっと、彼が笑った。

初めてそんな顔を見た。

彼は人の感情が理解できないと嘆いていたのに。

だから感情なんてものがないのかと思いこんでいたし、彼も表情がなかった。

あぁ、あたしはなにもかも勘違いしていたのか。


ふふ、と不思議と笑ってしまった。


























桜花だったものを見つめて目から液体が落ちていく。

それを繋いでいない左手で拭ってくれる彼。

まだ流れていくだろうからいいよ、と断った。



彼女はしあわせだっただろうか。



あたしと同じように村のための生贄とされて、小さなあの小屋にひとりぼっち。

満足な食事も、温かい寝台もなく。

夏の体中の水分が抜かれそうな暑さにも、

冬の心臓が止まってしまいそうなほどの寒さにも晒され続けたのに。


村に危険が起きたら、その身を犠牲にして守る。

そんな人生だった、桜花は。



彼女のおかげで村は元通りになるだろう。

でもきっと村人の誰も感謝の辞を述べないだろう。

それでよかったのだろうか。


目の前で彼女の最期を見たから、そう思わずにはいられない。



「ば、かみたい」



あたしの思いが、そのまま世界に反映されたのか、雨が降ってきた。

ぱたぱた、と地面で跳ねるような・・・そんな雨。

彼があたしの肩を抱き寄せる。

あたしはそれに寄り掛かって、尚も泣く。



『ほんとうのさいわいを、彼女は得られたのだろうか』



彼の疑問が耳に張り付いて取れなかった。



『さぁ、俺たちも行こうか』

「そうだねっ」



涙を勢いよく拭った。

もう涙は流れて来ないと思う。

大丈夫だ。また歩ける。


右手を握って頑張ろう、と念じるように思う。



「沢山沢山話して。

 また、友達と一緒に旅に出るあの話も聞きたいなー」



今のうちに彼も好きな話もリクエストしておこう。

この先まだ長い。

長い長い旅路を、彼と一緒に歩いていくんだ。



帰る場所はもうなくなってしまったあたしたち。

でも互いに互いの隣がいるべき場所。



振り返っても、生きていて幸せだったと思えることはないけれど。

中途半端なこの時間が掛け替えのないものだったと思えるよう。

本当のさいわいを、見つける旅に出よう。

ジョバンニのように沢山考えながら、時間をかけて見つけよう。



『なぜ、銀河鉄道の夜が聞きたいんだ?』

「そんなの決まってるでしょ?」



貴男が好きなものは、あたしだって好きなの。



そう言っても彼は理解できないだろう。

だから、



「話す時の貴男の顔が、一番キラキラ輝いて素敵だからだよ」



笑ってそう言った。

すると彼の顔が紅潮していった。

それが分かったのか、顔をすっかり隠してしまう。



「なんで、かくすのー?」

『・・・っ』

「しかたないなー。

 今はまだ覗こうとかしないけど、そのうち暴きだしちゃうからね」



姉を殺した相手だけれど。

その姉は自分を殺した相手。

なんだか、複雑で悲しくて仕方のない話で。

今でも周りに転がっている死に、涙が出るのに。




こんなことになっても、やっぱり彼が好きで。





「これからはずっと一緒に行こう。あたしは置いて行かない」





やっぱり、一人は嫌いだよ。



体温の高い彼の体に寄り掛かってもう一度涙を流した。








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