四十一本目
「冬華?!」
冬華の胴体から赤い液体が流れ出ているのが確認できた。
近くにテーブルナイフが落ちていて、凶器はそれであることも。
また、その犯人も。
「・・・ぁ」
顔を真っ青に塗り替えた春樹が冬華から距離を取った位置にいた。
なぜ、と口が勝手に動いた。
彼が冬華を傷つける意味が分からない。
春樹は、あの男の人と関係があるとは思えないから。
疑問を感じつつ、冬華の横っ腹を冬華のポケットにあったハンカチで押さえつける。
血は止まらない。
冬華を静かに地面に横たえる。
「ちが、ぼくは、・・・違うんだ!!」
余りにも気が動転しているようで、言葉にならない単語がぽろぽろこぼれていく。
それを見て、少しづつ落ち着きを取り戻していく。
彼は人を殺したことはもちろん、動物だって殺したことがないだろう。
だったら刃物の扱いだって、大したものではないだろう。
それならば、彼は刃物を丹田のあたりに握りしめ突進するだろう。
対象に向かって。
彼が、向いていた方向は私のいた位置だ。
そこにもし、障害物があったら?
きっとよけきれずに、刺してしまうのだろう。
先ほど冬華が刺されたように。
彼が殺そうとしたのは私だ。
体中の血が逆流したような感覚に陥る。
あぁ、本当に私は春樹に嫌われたんだな。
殺意を持たれるほどに。
これは私の本望だったものだ。
仕方がない。でも。
「冬華は、関係ないじゃない」
声が上手く出なかった。
なんで、なんで庇ったの。
あんたはそんな性格じゃなかったでしょ。
私にだけひどくきつく当たって、他には八方美人で。
私にだけ、特殊な感情を向けるなんて。
そんなこと、あるわけ・・・。
「関係、ならある、わ」
痛みを逃がすための苦悶の表情を浮かべる冬華。
声が切れ切れで、おそらくこのままだと死んでしまう。
彼女を助けられるであろう医者は、この村にはもういない。
私たち以外の皆、黒い影に連れていかれたから。
「妹守らない、姉なんていないのよ」
雨が降ってきた。
今までの中でも、激しく降るそれはまるで全てを流すような。
そんな、雨が。
「・・・・・ぁぁぁあああああああ」
あの男の人の絶叫が響き渡る。
彼は人の死に対してトラウマでもあるのだろう。
そもそも私たちがおかしいのか。
何度も何度も人の死を見てきたのに、この落ち着き様は異常だ。
沢山見てきた分、気が違ってしまったのだろうか。
冬華が最期の力を振り絞って、何事かを言おうとするのを止めた。
せっかく守ってくれた命だけれど、
無為にしてしまう馬鹿な妹でごめんね。




