三十六本目
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「まさか、真正面から向かっていくとは思わなかったわ」
ポツリとつぶやいたのだけれど、皆気づいたよう。
本来初対面同士であるはずの5人。
たった半日程度で運命共同体と知り、仲良くなるとは思わなかった。
コミュニケーション力には自信があるけれど、心の底から信じるということは苦手だったのに。
自分の心境の変化についていけない。
「冬華、怖いならここで待っていてもいいんだけど」
「怖いわけないじゃない。馬鹿にしないで」
あの桜花がこんなにも勇気を持っていることも知らなかった。
向き合った途端殺されるかもしれない相手に会いに行くと言ったのだ。
桜花が言うには、彼に私たちを直接殺す度胸がないのだと。
なにを根拠に、と頭ごなしに否定しようと思ったのだけれど、少し考えれば理解できた。
仮に彼が本気で私たち村人を殲滅することを計画しているのなら自分の手を汚すこともいとわないはず。
しかし彼は、発明品と自然災害に頼り自分は引きこもってしまっている。
つまり死体と向かい合うほどの覚悟がないのではないかと、推測できる。
だが、ここまではあくまで推測だ。
確かな情報ではない。
それに彼自身が凶器を持ち歩いていない事にもならない。
すると桜花は続けて言った。
村人が私を殺す際、彼は誰よりも遠くに離れていたという。
それがどうした、と言いかけたのだけれど、やはり落ち着いて考え直した。
率先して私を殺す意思を見せる人間のする行為だろうか、と。
毎回私が殺される原因は、彼が無人の社を見るからだと桜花は教えてくれた。
他の人間が発見することはなかった。発見自体が難しいのだ。
ただでさえ社は村から少し外れた所にある。
大人でも片道10分は掛かる。
何の用もなく近くに行かないようにしてあるのだ(逆も言えるのだけれど)。
分かりやすいほどに私への殺意を感じる小話だ。
今まで酷い扱いを受けてきた桜花に負けず劣らずだと思う。
閑話休題。話を戻そう。
殺す決意はしているのに対して、死体は見たくない。
いや、人が死ぬ寸前の光景そのものを忌避しているのだろうか。
一応それらを鑑みればすぐさま殺すような人間ではないだろう。
と、思いこんでも大丈夫だろう。
彼にあったのは数回ほど。
どういう人間なのかは、数瞬見ただけで分かった。
穏やかで、人見知り。
誰よりも怖がりで、痛いことが嫌い。
そして、誰に対しても同じように笑う・・・そんな普通の人間。
引っ込みがちな人にありがちなオーラをまとっていた。
だからどうしても彼がこんなことを望んでいるとは思えない。
逆に追い詰めることで噛まれる可能性を捨てきれない。
「・・・・・・・(はぁ)」
今度は誰にも聞こえないようにため息を吐く。
もしも、彼が桜花を傷つけるようならば。
先に死ぬことが望まれている私が、この身を犠牲にしてでも守らなくては。
私は、本当なら”巫女”ではないのだから。




