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きになるはなし  作者: 雲雀 蓮
壊された世界
27/70

二十六本目

**




というわけで、5人全員でお社の外に出た。

遙香はなぜか泣きそうな顔で私の頭を撫でて、どこかへ行った。

「探し物があるから」とつぶやいた遙香にはいつものふざけた様子はなく、

あんなにも敵意むき出しの咲希ちゃんが毒気を抜かれていた。


きっと彼女は自分のすべきことをなそうとしている。

私はそれが私たちのために繋がることではないかと信じている。

あの時私を見た目は、いつになく真剣で誠実だったから。


日が傾きだして、オレンジ色が広がっていく空を見る。

もう夕飯の準備が行われる時間だろう。



「行こう」



そう言った春樹の声と、道案内に誘われ村長の家に向かった。


村長の家は代々同じ大きなお屋敷だ。

”巫女”の家もなかなか大きくはあるが、村長の家はその一周りほど大きい。

と、冬華が言っていた。


なんでも警察所や拘置所?という牢屋も兼ね備えているので、必然的に大きくなるそうだ。

でも私たちが生まれてから今まで監禁されてきた人はいないらしい。

最近は牢屋などの必要性を話し合っていたという。

村長は牢屋を崩す理由がないと、他の反対派は別の目的に部屋を改造すべきだと主張していたそうだ。



「地下にある座敷牢には、怪談話があったんだ。

 定番の幽霊が出るって話。それを聞かされてきたから誰も入らなかった」

「つまり、地下があやしいってことね」

「人が入りにくいってことは侵入するチャンスですね!」

「そう言うことね」



体力のない咲希ちゃんはすでに顔色が悪い。

それも当然だろう。

彼女は短時間で村とお社間を一往復してきたのだ。

決して短い距離ではない。子供の足ならなおさらだ。



「大丈夫?咲希ちゃん」

「だ、大丈夫です。こんなの全然へっちゃらです。

 明樹が死んじゃうかもなのに、足引っ張りたくないです」



何度も繰り返してきたのは、私だけじゃない。

咲希ちゃんだって、相応の覚悟と勇気は持っている。

見くびらない方がいい、と素直に思う。

彼女と私は対等だと思うから。



「うん、一緒に頑張ろう」

「はい」



村長の家についた。

家の周りには誰もいない。

なぜだろうと思って周りを見渡すと、ここらには人の存在を感じられる現象はなかった。

夕飯の支度をしている台所からは何の香りも流れて来ず。

お手伝いの人が掃除をしているはずの玄関も荒れ果てていた。

春樹が先行して玄関の扉をそっと開いた。

中を数秒眺めて私たちを呼んだ。



「誰も、いない」



玄関にはひとつの靴もなく。

掃除途中だったのだろうか、玄関マットがなくなっている。

花瓶の花は靴棚の上に無造作に置かれてしなびていて。

水滴が家の中へ入っていくように一滴一滴零れていた。


ここにいる誰もが、泥棒ではないと判っていた。

しかし”災厄”の封印は解けていない。

つまり実態の持たない存在が、ここに居るわけがない。


ここいるのは、だれだ。



その答えは私たち全員が知っていて、侵入した。

彼は、村長だ。ここにいて何の不思議もない。



誰ともなく、息をのんだ。

彼に気付かれないように地下に行く必要がある。

彼につかまれば、確実に冬華が狙われる。

それを分かっているのか、冬華は一番最後に移動している。

勿論私は最悪の事態にならないように、その冬華のそばを歩いている。


一度小さく深呼吸をした春樹は、足音を殺して進んだ。

順に静かに歩いて、でも迅速に地下に向かった。

幸いなことに、地下まで誰にも遭遇することなくたどり着いた。


地下室は真っ暗で、少しひんやりした空気を内包していた。



「・・・戻ってきているのかな?」

「村の外に行くって言っていたのに、出られなかったからかしら?」

「いや、そもそも外に出られないと知っていて、”巫女”さまを殺すために、

 時間を空けたのではないですか?」



あの水滴を追いかけていたら、何が待っていたのだろうか。

そう思うと私たちはこの地下に行くように誘導されたのではないか?



「遙香の言っていた資料を探そう」

「そうね。さっさと用事を済ませて解決策を立てないと」

「明かりは・・・あるか」



春樹が壁を探って、明かりの電源を入れる。

真っ暗だった部屋の全容がはっきりと見えた。


地下室は十畳ほどの部屋だった。

壁に沿うように本棚が置いてあり、本棚いっぱいに本や資料が並べてあった。

並べ方を見る限り、持ち主は相当几帳面な人だったのだろうことが分かる。

床には何か幾何学模様が描かれており、一見すると魔法陣のように感じる。



「これ、何だろうね」

「計算式みたいね。理解はできないけれど」



周りを見回すと、部屋の至る場所に計算式は書かれていた。

本棚の裏にまで計算式は続いていた。

その事実から本棚は後から運び入れられたことが分かる。


宗教、哲学、数学、物理、精神科学、大量の難しい本。

その中にふと、目に入った本があった。

背表紙に「Diary」と書かれたそれは、日記帳だと冬華が教えてくれた。



『○月○日 とある村に引っ越した。ここでなら好きなように研究が行えるだろう

      俺が本当に知りたかったことを漸く掴めそうで、今後の生活が楽しみだ』


「これは、彼の日記?」

「みたいね。しかもきっちり最後のページまで書かれている」

「最後のページが、彼の最期の日・・・ですかね?」



彼の過ごした日々は、どんなものだったのか。

これを読んでも全てはわからないかもしれない。


でも私は難しい本の中よりも、この日記の中に彼が居ると思う。

確かにここで生きてきた彼をこの日記の中から探したい。

そう、思った。






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