二十五本目
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無性に腹が立った。
今更あがいたって、何にもならないことを知っていたから。
もう何もできないんだよ、って教えようと思って戻った。
でも彼らはあきらめない様子で、どうするかを考えていた。
おそらく村の大人よりも真剣かつ建設的な案を。
だからあたしはもう、ふざけるのはやめようって。
少しでも彼女に長く生きてほしいと、思ったから。
あたしみたいに、誰かの犠牲になって死んでほしくはないから。
「・・・・・」
彼らはお互いに情報交換が終わったようだ。
あのお喋りな少年の春樹ですら、口を閉ざした。
誰もが、必死に思考しているのが傍目から見てもわかる。
「・・・あのね、桜花。いいこと教えてあげる」
「何よ、あんたまだ嘘付く気なの?!もう騙されないんだから!」
咲希が犬歯をむき出してあたしを威嚇する。
でももう慣れてしまったので無視。
桜花の目だけをしっかりみて、告げた。
「この村にはまだ、彼の書いた研究ノートがどこかにあるの」
「彼って、もしかして」
「そう、”災厄”の生みの親。それを見れば何か分かるかもしれないよ」
「嘘つき!そんなのあったらとっくに村長が始末してるよ!」
咲希の言うことももっともらしく聞こえる。
が、しかしこの村に彼の痕跡が残っているのは確実だ。
彼はまだ、この村に存在しているのだから。
たとえ村の全ての権限を有している村長でも干渉できない存在。
それが彼だ。
「お願い、彼を探して」
今はこれしか言えなかった。
もっと核心的な事実を述べるべきだ。
でもどんなに言葉を重ねるよりも、言動だけの方が気持ちは伝わると思うから。
逡巡していた様子の桜花は、何を考えてくれたのだろう。
硬く瞑った目からは何も見えない。
「おそらく、の話だけれど。
その彼は、何を調べていたのかという問いの答えが”災厄”だった。
それによって多くの人の命が必要とされ、報酬としては流れ星と一緒。
彼には何か、どうしても叶えたい願いがあったと考えるのが当然よね?
だったらそれに関する何かしらもどこか─村長の家にあるんじゃないかしら」
そう述べたのは冬華だった。
”巫女”として普通の村の子よりも徹底的に教育を受けているだけある。
しかしそれを聞いても桜花は目を開けない。
まだ何か疑問があるのだろうか。
それともあたしを信じかねているのだろうか。
「だとしたら、僕の家に行かなくちゃいけない。
そうなると”贄”である桜花さんを置いて行くことになる。
この状況で一人にするのは危険だよ!」
春樹による団体行動の必要性を聞いても、桜花は何も見ない。
「二手に分かれる、とかすれば片方は大丈夫じゃないの?」
「でももし資料が膨大だったら?持ちきれないどころか、ここに運ぶことすらできないよ」
彼の遺品は、そうない。
ほとんどの発明は捨て去られた。
”災厄”に関する資料のみ、あの部屋に置き去りにされている。
そうして、あたしの言葉から彼らの議論はまた始まろうとしたとき。
桜花は目を開けた。
「行こう、みんなで」
「でも村長がどこにいるかわからないのよ?」
「村長は私たちを殺すことはしない。特に私は殺さないよ」
「そんな根拠一体どこにあるって言うの!?」
彼女は、わかっていたのか。
どうして毎回村長は冬華を『桜花と誤って』殺してしまうのか。
「村長はもとから冬華を殺そうとしていたんだ。
そして、私と冬華で封じている力を解放させようとした。
だって毎回私と冬華を見分けられる人は村長以外に居なかったもん。
最初から冬華を追いかけていれば、絶対間違うことなんてない」
「ストーカーしていたってこと?」
「じゃ、じゃあ今もどこかで見ている・・・ってこと?」
「いや今はいないと思うよ。まだ、男の双子が生まれていないから」
必ず、冬華を殺さなくてはいけなかったから。
”贄”つまり、”災厄”にとっての餌である桜花の方に力は偏っている。
枷を外すための力は、冬華が持っているのだ。
冬華を殺してしまえば、力は桜花に戻っていく。
冬華を殺す理由は、『儀式の妨害』と『一卵性双生児』。
「どうして、村長は儀式を妨害されるのを知っていたのか。
どうして、分けられている力をわざわざ戻すのか。
どうして、村の外に出てはいけないのか。
そのすべての答えは、ちゃんとあった」
「”災厄”を生んだのは、村長だ」
彼らは、あたしから情報を少しだけ得ただけ。
たったそれだけで、この村にあった謎の答えに近づいていく。




