二十二本目
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「“巫女”様!」
「どこにおいでですか!」
「外は危険です、“巫女”様」
村人が“巫女”を探している。
呼びかける声を全て無視し、わたしと明樹は村の外へ向かって走り出した。
「っは、はぁ」
「どうしたの、咲希。いきなり村の外に行こうだなんて」
「時間がないの!・・・急がなきゃ、わたしたち死んじゃうの」
「・・・・・・もしかして、隣のおじさんが死んじゃったことが関係しているの?」
異変が起きていた。村人が突然死んでしまうという、ありえない事が。
死因はどう見たってわからないものばかりなのに、村の医者は一目見て判定する。
しかも間違っていないと、誰もが言う。「仕方なかった」と。
「あのおじさんは、確かに土砂に押し流されて死んだよ。でもね、最近雨降ったのは何時?」
「・・・えーっと一週間くらい前?」
「しかもそんなに降ってなかったでしょ?それなのに、どうして土砂災害に遭うの?」
「確かに」
「おかしいのはそれだけじゃない。
妊婦さんのお腹の中で子供が死んだ状態のまま出てきたり、
なぜか畑があれていたり、お墓の木が増えていたり。
はっきり言ってこれは異常よ」
このままでは自分たちの命も危うい。
そうみんなが思うはずだ。
わたしたちの様に異常を感じた人から順に、わたしたちから目を離していくだろう。
そうすれば、わたしたちは自由に外に出られる。
見知らぬ人ばかりの集団で、一緒になれる。
「チャンスは、今しかないの」
「でもなんとなく、それじゃダメな気がする」
「・・・どういうこと?」
わたしが必死になって明樹の手を引っ張るが、明樹は動かない。
むしろ足に力を入れてその場に留まろうとする。
無理に手を引くことをいったん止め彼の意見を聞く。
わたしがこの場で結論を出すには、情報が足りない。
もしかしたら彼には見えていたことがあるかもしれないと思ったのだ。
「もし、今逃げたとして。
そうすると、土砂災害によって死んだこともある僕らが山に登ったら同じよう に死ぬんじゃないかな。
だったら村に居ても、逃げても一緒。
死を回避するためには、この異常をなんとか正常に戻すことが必要だよ」
「でも、どうやって・・」
「解らないから、調べるしかないよ。
そのためには咲希や咲希みたいに前の記憶がある人の記憶と
今の状態を照らし合わせる必要がある」
「私みたいに、覚えている人って誰?」
「“巫女”と“贄”だよ。咲希言ってたじゃないか。
“巫女”に『時間を巻き戻すのをやめろ』って言われたって」
確かに“巫女”との接点はあった。
繰り返し始めた中で、神様を信じているかという会話からわたしは“巫女”と会話することが増えた。
その中の一つではっきりと覚えていた言葉だ。
なぜわたしが時間を巻き戻すことを知っているのか。
今回の記憶の混乱によってはっきりと思う出した事実の一つだ。
「“巫女”は知っていたんだ。
きっとこの異変だってもう気づいているはずだ。
だから今、村人全員が“巫女”を探しているんじゃないか?」
この世界は、異常だ。これはおそらくわたしの所為だ。
世界を歪めたのは、ルールを破ったのはわたし。ならば。
「うん。分かった。わたしは“巫女”に会いに行ってくる」
「僕を置いて行くの?」
「だって、山を少し上らないとお社には行けない。明樹が来たら一緒に死んじゃうかもしれないよ」
少しでも危険の少ない場所へ、明樹を。
わたしなんかと一緒に死ぬ必要はない。
“災厄”や世界が殺したいのはわたしだけだと思うから。
明樹は関係ないのだ。
最初からわたしは幸せを得たいだなんて思ってはいけなかったのだ。
「でも村に居たからって安全とは限らないって、わかっているじゃないか。
咲希はいつもそう。僕を守ろうとして、安全な場所に置く。
でもそれって変だよ。
本当に守りたいって思うなら、傍に居てよ!置いて行かないでよ!」
涙は出ていなかったが、明樹は泣いていた。
わたしがあまりにも明樹の気持ちを蔑ろにするから。
誰よりも愛していると言ったわたしが、彼から遠ざかろうとしているから。
「そう、だよね。・・・うん、分かった。一緒に行こう」
右手を伸ばして明樹の手を待つ。
すると花が咲くように明樹の表情が、明るくなった。
「うん。一緒にいこう!」
わたしたちは互いに目に異常がある。
だから、二個一していかないといけない。
明樹に見えない色を私が見て。
わたしに見えない明るいところの景色を明樹が見る。
二人でいても十分ではないかもしれないけれど、一人よりもましだ。
どこまでも、二人で一緒に。なんて言えたら。
そんな幸せな事はない。
淡い希望を胸に、わたしたちはお社に向かって歩き出した。
まだ陽は燦々と降り注いでいた。




