二十本目
まさか、と思った。
突然の頭痛によって地面に膝をつく彼。
頭の痛みに耐えるのに必死で動けなくなっている彼を放って、私は走った。
もし同じ時間を混ぜて覚えているのがこの村自体も同じならば。
この村からの出口が消えている可能性がある。
潰された状態で残っているかもしれない。
いやそれ以外にも、村に異常が起きているかもしれない。
そんな不安に駆られて私は村の出入口へ向かった。
「はぁ、はぁ」
村の出入口は無事だった。
多少看板の字に欠損があるが、何の問題もなく人が通れるだろう。
一度通ることができれば安心して彼の元に戻り、先ほどの記憶をごまかすことができるはず。
そこまで考えて、一息入れる。
一歩で通りきれるはずだ。
さく。
「・・・・え」
確実に村の外を向いていた。
村の外に向かって歩いていたはずなのに。
今、村の内側を向いている。
突き出した足はそのまま村の中に入っている。
戻された、としか考えられない光景だった。
時間を巻き戻すうえで必要な代償の大きさ。
その理由を漸く理解出来た。
常に流れていくものである時間を止めたり、巻き戻したりしてはいけないのだ。
そもそもできないものであり、することで世界そのものを破壊しかねない。
さながらルールを無視して行ったゲームのように。
手順を大幅に変えた料理の様に。無残な結果を齎してしまう。
私は、恐ろしいことをしてしまった。
この世界を壊したことで、彼を殺してしまうのだ。
「漸く、わかったんだね」
久しぶりに聞こえた、あの悪魔の声。
今までずっと聞こえなかった、ソプラノ。
「このままだと、あんたたちみんな死ぬ。あんたと咲希の所為でね」
営業スマイルを浮かべて悪魔は言う。
お前の所為で、と。
先ほどまで理不尽に春樹を責めていた仕返しと言わんばかりに。
「一つだけ、助かる方法あるけど知りたい?知りたいよね。
だって大好き―な彼が死んじゃうんだもんね?しかも自分の所為で」
段々と口角が必要以上に上がっていき、最終的にお腹を押さえて笑っていた。
言い返す材料を持たない私はみじめな気持ちで、悪魔を見ていた。
「あんたさ、自分の立場忘れてない?こういう時に役立たなくて、どうするの?」
「でもこの村に神様はいない」
「“災厄”があるじゃない。あれは神様より密接して存在してくれているじゃない」
一度言葉を切り、悪魔は言った。
「人の一部を抜き取り続けて、膨大な力を蓄えている“災厄”が。
きっと一人丸々呑み込めば元に戻るほどの力を得られるでしょ」
貴方は、“贄”なんだから。
その後の悪魔の言葉が反響する。
「死んじゃえ」と。




