十九本目
また、今回も始まった。
繰り返しばかりの毎日で退屈してきている。
不謹慎だが言わずにはいられない。
毎日毎日、同じことばかり起こるようにも感じられてきた。
双子が生まれて、
土砂災害が起きて、
村の畑は全滅して、
私の代わりに片割れが死んで、
村を抜け出そうとする咲希ちゃんと明樹君が死んで。
何度も何度も、繰り返し見てきた。
回避できるものは回避できるようだけれど、いい方法ばかりではない。
でももう、手段を選んではいられない。
だって咲希ちゃんが焦りから危ない方法に走るから。
彼女は一人でなんとかしようとしている。
どうやら自分が繰り返しに関わらないと前回のことを覚えていられないようだ。
私も同じなのかと思いきや、そうでもなさそうだ。
なぜか自分が死んだあとの記憶がある。
これは一体誰の記憶だろうか?
もしかして“災厄”に殺された後吸収されて、咲希ちゃんの記憶が混ざっているのだろうか?
難しい理屈は後で考えよう。今は時間が惜しい。
布石ともいえる投石を、一つでも多くこの手から離していこう。
ぼろぼろの着物のまま外に出る。
近くの湖のようなところまでゆっくり歩いていく。
歩いている間ずっと目線は下。
目を閉じたって歩けるほどここは歩き慣れた。
すると、向かいから足音というか、草をかき分けるような音がする。
その音につられて目線を上げていく。
最初に黒い靴が目に入って、だんだん黒い人影が認識できるようになる。
「あれ、君は?」
そう、彼だ。春樹。
全身真っ黒にして森を歩いてくるのが今日の朝。
お社をぐるりと覆っている森は、今まで亡くなった人たちのお墓も同然だ。
彼はこの朝早くからお墓参りに来ていた。
「あんたには関係ないでしょ」
冷たく、感情を消して声を出す。
彼は少し眉根を寄せた程度で特に文句は言わなかった。
「僕はね、妹に会いに来たんだ」
「訊いてないのに、よく話す人」
「あはは。君は口が悪い人みたいだね」
この程度の悪口は彼には効かない。
だって人の言葉を咀嚼することができないから。
彼は聞くことに関しては全く能がないから。
いつだって自分のことを話すばかり。
「毎日続けていたら、妹に会えるかもしれないから。だから僕は」
「ばっかじゃないの?」
お喋りさんの言葉を遮って、更に悪口を浴びせていく。
きっと彼には大した打撃じゃないだろうけれど、でも言わずにはいられない。
彼の妹はもうどこにもいない。
この世が本当に存在している確証もないのに。
あの世なんて不確かなもの存在するなんて確証は限りなくないに等しい。
それなのに彼はキラキラした顔で言うのだ。「神様ってすごいよね」と。
「こんなことしても、あんたの罪は消えない」
そう、冷たく言い放った。
彼の体は一瞬にして石像のように固まってしまう。
この言葉は一種の必殺技だ。
彼は妹の死には自分が関わっていると思っている。
生憎と私は本当のことは分からないけれど、彼はいつも教えてくれた。
ループ毎、彼が私のことを忘れるたびに。
同じ話を何度もしてくれた。その中の話が妹の話。
彼には妹ができるはずだった。でも流産だったと彼は言っていた。
出産日も近くて苦しんでいる母親に対してわがままを言ってしまった所為だ。
食べたいものは手間のかかる料理ばかり。
何でもかんでも自分の都合ばかり。
その当時、彼は自分の欠陥に気付いていなかったのだ。
いくら安定期に入ったといっても、無理は禁物な妊婦に対してする行いではなかったと彼は言った。
心身共に負担をかけるものばかり母親に強いてしまったのだ。
結果として、母親は重度の腹痛を訴え流産してしまった。
彼は自分の手で妹を殺したのだ。
さらに彼の母親は一年間ほどうつ病のような状態に陥ったとも言っていた。
その罪が彼に今でも重くのしかかっている。
これだけは、彼の耳が捉えるのだ。
彼のトラウマともいえるもの。
妹の話題が自分以外の口から発せられた瞬間、その罪を咎める言葉を連想する。
その根源が私であればいい。
そうすれば、彼は確実に私から遠ざかる。
「悪いことは言わない。もうここには来ない方がいい」
それだけ言い捨ててお社に戻る。
彼は私に近づいてもらいたくない。
死んで、しまうから。
ここまで言えば、流石の彼も私には近づかないだろう。
嫌いというよりも恐怖する、そんな対象になれただろうから。
「まって」
フリーズしていた彼が、私を呼び止める。
「君は、僕と会ったこと、あるよね?
――ここじゃなくて、もっと、違うところ・・・。
どこか、いつか、わからないけれど」
そんなことない、と即答できなかった。
私と同じように前の(・・)記憶を保持しているかもなんて。
考えてもいなかったから。
「そう、初めてじゃない。ここで君と出会うのは
きみは、”贄”
”災厄”が、僕らを殺すから、逃げろって言った。
君を・・・置いて逃げろって言った。
そんなことできるはずもないのに」
切れ切れの言葉を聞き、漸く違和感に結論が出た。
私が死んだ後の記憶がある理由。
「君も、僕のこと覚えているの?」
繰り返し過ぎた時間が、世界が歪んでしまっている。
やり直した分、同じ時間が存在してしまい混乱につながった。
私たちにどれが正しいか、判断が付かないほどに混濁している。
それは、私たちだけ、だろうか?




