十八本目
それから。
予想通り何度も繰り返すことになった。
自分で繰り返すようになったのは咲希ちゃんが7回繰り返した頃から。
私はその七回がどれほどまでに短いものだったかを知った。
何度も何度も、明樹君は死んでいくし。
咲希ちゃんはいくらでも繰り返していく。
それと同じくらい片割れが死んでしまう。
繰り返せば繰り返すほど、片割れは死んでしまう。
今までの七回にはなかったことだった。
片割れは七回中三回しか死んでいなかった。
(明樹君は七回とも死んでいた)
春樹だって、死ぬ原因なんてほとんどなかったはずなのに。
ここ最近は何度か死んでいる。
その度に私が繰り返そうとするけれど、明樹君が死んでしまうので咲希ちゃんが先に力を使ってしまう。
でも出来れば咲希ちゃんには無理をしてほしくはない。
彼女の力には限界がある。
代償は彼女自身の命だ。
一つの願いに対して、一つの命。
それは他でもない自分自身のものでなくてはならない。
それに対して私は“巫女”と巨大すぎる力を共有している。
片割れが死んでしまえば必然的にすべての力が私に傾く。
私はそれを使って時間を巻き戻している。
つまり自分の命は一切削らずに事を終えているのだ。
だから、彼女が無理をする必要なんてないと思うのだ。
「・・・・か」
片割れは犠牲になるけれど。
それしか方法はない。私はそう思う。
ぎしぎし、と体の奥の方から音がする。
なんだか体中が痛い。
どうしてだろうか。
「・・ぃたい」
まるで(・・・)山から転がり落ちたような痛み。
小石や枝で体を切り裂かれ、障害物に真っ向からぶつかったような。
そんな、味わったことのある痛み。
「しんじゃう、かな」
今回は咲希ちゃんの立場を入れ替わってみた。
ダメだった。
明樹君がどうにも警戒してしまう。
彼にならわからないと思ったのに。
髪型が似ているから、わからないと本気で思ったのに。
なぜかばれてしまった。
やはり声が違うからかな。
「あぁ、またやりなおし」
今度は、どうしようか。
何をどうしたらみんなが生きていられる未来が手に入るのだろうか。
どうしたら、私の願いは叶うのだろうか。
明樹君が死なない方法は、咲希ちゃんが駆け落ちしないように誘導すること。
片割れが死なない方法は、村長が来るときに私がお社の中にいること。
春樹が死なない方法は、私のそばに寄らないこと。
何十と繰り返していく中でようやく見えてきた攻略法。
残念なことにすべてを可能にすることは、難しすぎる。
一番の問題が咲希ちゃんと明樹君を救う方法だ。
この村での近親相姦は完全に禁止されている。
これは奇形児や双子が生まれる可能性が跳ねあがることに起因している。
それに世間を知らずに大人になるとされていて、大人はみんな渋い顔をするらしい。
村民全てを敵に回すことは何よりも恐ろしいことになる。
皆がみんな、同じものを崇拝していて。
皆がみんな、同じ考えを持ち合わせている。
一種の洗脳じみたものがこの村を汚染している。
溝川の中で輝くような存在は稀有なのと同じ。
そういうものがあるから、二人は村の外へ出るのだ。
理解されなくてもいいから、一緒になりたいと。
中の障害を考えれば、外の方がいいと考えてしまうのだ。
それを上回るような話をでっち上げてでも二人の逃避行を止めなくてはいけない。
失敗すれば明樹君は死んでしまい、咲希ちゃんは巻き戻す。
困ってしまうほどにそこだけは繊細なのだ。
長い時間が経って、春樹への思いは少しずつ擦れてきた。
感覚がマヒしている。
あの時の思いが少しずつ思い出せなくなってきている。
あんなにも大事で仕方がなかった存在だったのに。
今はもう特にこれといった感情を持ち合わせてはいない。
たまに会いたいと感じてしまう程度だ。
だから、はまってしまった。
いつまでもループからは抜け出せない。
このままではいけない。
しかし頑張る理由がない。
全く、思い出せないのだ。
あの時の必死なまでの感情が。
どこかに捨ててしまったかのように。
「・・・・・」
それと、もう一つ。
最近“悪魔”である彼女を見ない。
いままではうざいくらい付きまとってきた彼女が、いなくなったように感じる。
それは七回目を超えたあたりからだったと思う。
そう。私が巻き戻してから、ずっと会っていないことになる。
私が、死にそうになっても、現れてはくれない。
「ばっか、みたい」
彼女の口癖だったと思う。
勉強を教えてくれた時、言葉遣いが極端に悪くて片割れに怒られた時。
村人への悪口を連ねていた時、彼への恋慕がばれた時。
毎回この言葉から始まった。
本当に、馬鹿だったから否定できなかったけれど。
今なら大人しく認められると思う。
だから、お願いだから。
私に教えてよ。
このループを抜ける方法を。
涙がぽろぽろとこぼれていく。
助けがないことに対してじゃない。
これから試さなくてはいけない攻略法に対しての涙。
今までずっと、笑っていようとしてきた私への裏切り。
私はもう、笑うことはできない。
全てが終わるまでは、ずっと。
仮面をかぶろう。
他の誰でもない、自分のために。
この世で一番大好きな彼のために。




