十七本目
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きぃぃぃぃん。
耳が詰まったような音がする。
それは変か。聞こえない感じがする。
気圧で押されたようなあの嫌な感触。
また、時間が戻ったのだ。
惨劇をそのままにして、私は沢山の人を未来ごと消し去ったのだ。
最低だ。
最低の目覚めだ。
そんな気持ちに反して、太陽は今日も明るく昇ってくる。
「・・・・・ぅう」
これからどうしよう。
今はいつで、どういう状況なのか。
私には知る術がない。だって、”贄”はお社の外に出られないから。
そう、私が時間を巻き戻したって何の意味もなかったんだ。
最初から詰んだ。
やり直ししても、咲希ちゃんに記憶を託すべきだった。
私なんかじゃ到底何もできないのだから。
ただのバカな子供に何かできるわけなかったのだ。
「・・・・いる?」
片割れの声が、小さく聞こえた。
お社の裏から聞こえたから、そっと近づく。
そして、同じくらい小さい声で応える。
お社の裏には大き目の空気穴のようなものがあるのだ。
夏はそれがないと私が死んでしまうかもしれないから。
「何?」
「これにちょっと着替えて」
「・・・・うん」
「早くしてよね」
空気穴を通して渡された服は、今着ているものとは違ってかわいらしいものだ。
(ちなみに今着ているのは、ぼろぼろの着物だ)
フリルが随所についていて、オレンジやピンクといった配色ばかり。
そして、スカートだ。
着物もロングスカートみたいなものだけれども、やはりスカートは短い。
足が半分以上は出てしまう。
でも文句は厳禁。
それによって何かしらあって困るのは私だから。
「・・・・できた」
「なら、あんたの着ていたの綺麗に畳んで外に出なさい」
「えっと、入れ替わり?」
「そ。今日一日はお願いね」
「・・・・・・?」
「逢魔が時になったら戻ってきなさい」
その後今日一日について予定を聞かされ、暗記させられた。
逢魔が時にはすべての予定が終了するのだと言う。
入れ替わりの理由を訊いたけれど、何も答えてはくれなかった。
ただ悲しそうに俯き、私を睨むのだ。
意味が解らない。
でもいつまでもそこに居れば更に怒られるから。
私は片割れと同じようにゆっくり、丁寧にお社の中を歩いた。
別に入れ替わるのは初めてじゃないから。
勿論時間をやり直す前から何度かあった。
毎回毎回こうやって私の元へ来ては言うのだ。
「習い事がだるい」と。
退屈だから抜け出した。
代わりに勉強を教えてあげるから、代わりに習い事へ行って。
そういった簡単な関係だった。
私は彼女の嫌なことを代行していた。
別に習い事は嫌いじゃなかった。
でも別の人になりきることが嫌いだった。
難しいし、面倒だし。少しでも素が出てしまえば怒られるし。
だからあまり楽しいことばかりでもなかった。
それに知らなくてもいいことを知るばかりだったから。
「ありがとう」
きっと彼女は分からない。
でもだからこそ、伝えておきたい。
やり直さなくて済むように。
一日一日を大切に生きて行こう。
「別に私が嫌だから代わってもらうだけよ。ほら、さっさと行きなさい」
「うん」
パンプスという変な靴を履いて、外へ駆け出す。
その背中で彼女の声が聞こえた。
「その靴で走るな、馬鹿」って。




