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きになるはなし  作者: 雲雀 蓮
繰り返される事象
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十五本目



『さぁ、』


『さぁ、』


『さぁ!』



早く壊せと声がする。

これが”災厄”の本体だ。

破壊だけが彼らの存在意義。

恐ろしい声音で私を操ろうとする。


怖い、とは思う。

でももう慣れてしまった。


何度も繰り返した甲斐はそれなりにあった。

今の私は怖いものなんてそんなにない。

この”災厄”だって怖くなんかない。


でも一つだけ怖いことがある。



「・・・・・・・・・・・・ごめんね、」



名前は訊かなかった彼をどうしようもなく愛おしいと思う。

全てを滅ぼすことになる、そんな私に優しくしてくれた。

私がそれに応えたことは一度もなかったけれど。

それでも、彼は笑顔で私と話をしてくれた。


些細なことだ。

恋愛なんてものじゃない。


優しさに飢えた私に、唯一優しくしてくれた彼。

それだけ。たったそれだけの関係。

勘違いしてはいけない。

あれは彼の為人。彼の良過ぎる性格の成せる行為だ。

そこに愛なんてそもそもない。



「っ」



涙がまた零れていく。

つつー、と頬が一部分だけ濡れていく。



出来ることならば彼と話をしてみたい。

こんな結末にならずに済む世界に居たい。

彼と、一緒に歩きたい。


思ってはいけないことばかり、心が叫ぶ。

ダメ、ダメなのに。


望んだら望んだ分。

希望と絶望の為替が発生する。

どちらも差額はないけれど、その分直接的だ。



「・・・・・今度こそは、殺しちゃうかも」



”災厄”が一度外に出てしまえば、みんな死んじゃう。

彼だって例外じゃない。

でも彼が死ぬのは一番最後の方だ。

いつも私が庇ってしまうから、一番最後まで生き残ってしまう。

辛そうに顔をゆがませる彼の顔ばかり記憶にある。

他のことは殆ど覚えていないくせに。

彼の気配があることばかり憶えてくる。


でも今回はダメかも。

理性が持つかわからない。

唯一仲間だと思っていた咲希ちゃんはもういない。


彼だって、違うんだもん。

誰もが敵であり、私に武具を向ける。



ぎいぃ




「あ、」



ボロボロの扉の開く音がする。

それに驚いて、腕が本に当たる。

本は本来の位置から外れ、床に零れ落ちていく。


ごぉ・・・、と空気の流れる音がする。

長い間されていた封印が綻びを始めたのだ。



「君は?」



呑気に私の名前を訊いてくる彼。

早く逃げろ、と言ってもきっとすぐに動いてはくれないだろう。

私にできるのは。



「こっち!」



裸足のまま外に出る。

勿論生まれたばかりの男の子を抱えて、彼の手を力いっぱい握りしめて走る。

石が足の裏に食い込んで、血が流れていく。

けれどそんなこと気にしていられない。



「ちょっと、どこに行くの!?」

「うっさい!いいから付いてきて!」



”災厄”が完全に行動出来るようになるには少しだけ時間が必要だ。

人間でいうところの寝起きと一緒。

数分程度しかないけれど、彼を遠ざければその分彼は安全な場所に行けるはず。

”災厄”は真っ先に村を襲うから。

村の方とは反対に逃げればきっと大丈夫。

他の誰よりも彼が長く生きられるはずだ。


だって、”災厄”の一部になる私がそれを望むから。

誰よりも長く、生きていてほしいから。

失うのが何よりも恐ろしいほどに、大好きだから。



「ちょっと!」



彼の静止の声なんて無視。

出なくちゃ、出なくちゃ!

たった数分の延命かもしれないけれど、それでも。

私はーーーー!



『なんで?』



ありえない声が聞こえた。

だって、あの子はもう。



『なんで、巻き戻さないの?』



咲希ちゃんは、



『気に食わないなら、やり直せばいいじゃない』



もう、死んじゃったはずなのに。

”災厄”の一部に、またなっちゃうなんて。



そんなにも、この結末は彼女にとって辛いもの?



『貴女には、その力があるじゃない』


『私と違ってきちんと力が使える』


『その状態なら、記憶もそのまま巻き戻せるかもしれない』


『ねぇ、早く』



巻き戻せ、の声が残響する。

実体のない彼女の声に間違いなかった。

もう既に人間からは遠のいているのを感じた。

私も同じことを体験したことがあるから。


彼女の言うことは、間違っていない。

咲希ちゃんの巻き戻しはいつも死に間際。

私たちは自分の命を力に変えて、願いを叶える。

そのため命ー寿命が長い方が自由に使える。

今の私はすこぶる健康だ。

多少足が血まみれなだけで。

きっともう一回分、大きなわがままを叶えても大丈夫だろう。


でも、せっかく取っておいたものなのだ。

たった一つのものが、欲しかっただけなんだ。




「・・・・・・・・・・ぁ」




体中に力が満ちる。

それは時報。

片割れである彼女が死んだことを知らせてくる。


”巫女”と”贄”は同じ力を分け合って存在している。

片方に傾くことがないように。

傾いてしまうと人間の体では耐えきれないほどのエネルギーを得ることになるのだ。

だから女の双子は両方とも生かされる。

膨大過ぎる力が村を滅ぼすことがないように。

・・・ただし”贄”の方は待遇が雑になるが。

(男の双子はそういう力がないのともう一つ理由があったはず。

覚えていないけれど)


今、”巫女”が死んだ。

でも”贄”は生きている。


こうなる理由はただ一つ。

私が男の子を助けるからだ。お社の外に勝手に出るからだ。


お社の様子を見に来た村長が空っぽのお社を見る。

そして、”巫女”と”贄”が入れ替わっていると勘違いをする。

”贄”が居なくて、更には先ほど置いた男の子もいない。

その理由を考えると、そう勘違いをする。

(不幸なことに、私と片割れはそっくりなのだ)


入れ替わって男の子を親元に帰したーーそう考えるようになっているようだ。


だから儀式を邪魔した”贄”を殺す。

”巫女”に化けているだけだから、何のためらいもなく。

数回スコップで頭を強打し、生き埋めにするのだ。

今”巫女”は間違いなく地面の中にいるのだろう。


それはどう考えたって、私の所為。

だけれども、心が痛むことはない。

彼女は私と比べて格段に良い暮らしをしているのだから。

それを知ることは未来永劫ないのだろうけれど。




私は今まで時間を巻き戻したいなんて願ったことはなかった。

だって巻き戻したって、結果が変わるとは思えないから。

それに同じことを何度もする勇気がなかったから。



なりふり構わず守りたいものなんてなかったから。



だから咲希ちゃんの行動はとても驚いた。

兄のために奮闘するなんて。

なんて真っ直ぐな人なんだろう、と。


私には到底できないことだと思っていた。



事情が掴めないまま連れてこられた彼。

きょとん、としているのかと思いきや、顔が真っ青だ。

なにか見えてしまったのだろうか。



「君。あ、しの血が・・・!」



あぁ、優しい。

今まで忘れていた痛みが彼の声につられて戻ってくる。

足のどこも痛くて仕方ない。


でもこれからすることに比べればなんてことない。

もうこんな痛い思いなんてしなくて済むようにちゃんと選ぼう。

その前に、彼に言わなきゃ。




「春樹、」

「なんで僕の名前・・・?」


「ごめんね」




これから一体何回繰り返すかは私にはわからない。

私と咲希ちゃんとで、何度挑戦するかなんて予見できない。

もしかしたら”巫女”の分も加わるかもしれない。

今回のさっきの出来事のように巻き込まれるだけの彼に、申し訳ないけれど。


先に謝っておこう。

これからもたくさん巻き込んじゃうかもしれないけれど、許してね。



「・・・終わりの始まり、始まりの終わり。ここは、通り道」




また、やり直そう。

出会いも別れも。


どれも私にとっては大切で、掛け替えのない宝。



どうか次はみんなが覚えていられる、未来になりますように。









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