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きになるはなし  作者: 雲雀 蓮
繰り返される事象
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十四本目


次の日。


延期されていた儀式が行われることになった。

咲希ちゃんと明樹君の葬儀も続けて行うらしい。

私は一人、お社の中から外の様子を覗っていた。



数多ある隙間から見えたのは、”母親”の泣き顔だった。


誰よりも声を大にして喚いている女性がいる。

きっと彼女は咲希ちゃんのお母さんだろう。

そのずっと後ろの方には、赤ん坊を抱えた女性がいる。

あっちは男の双子のお母さんだろう。


どちらも顔を真っ赤にしている。

頬も鼻も。耳まで赤くなっている。

立っているのがやっとといった様子だ。


「どうして私の子ばっかりこんな目にぃ・・・!」

「・・・・っぅ」



「そういえば、あの奥さんもう一人男の子いたわよね」

「そうそう。双子だったから・・・」

「かわいそうね」

「でも、村のためには必要なことだったのよ」

「・・・そうね」



何が双子だ、何が村のためだ。

こんな村には最初から神なんていないのに。

いると勘違いしてこんな非情なことをしでかしている。

それに一体いつ気づくのだろうか。


この村にいるのは”災厄”だ。

神じゃない。もっと正反対な存在。

パンドラの箱から出てきたての新鮮な絶望だ。

そこにほんの少しだって希望なんてない。


なのに、なんで。

こんなにも酷い仕打ちを、子供にできるのだろうか。



「私が言えることじゃないけど」





お社の中にある、神棚。

そこには勿論お供え物が並んでいる。

お菓子はないけれど、村で出来た食物や花。

綺麗に整えられて置かれている。


その中に場違いなものがある。

赤褐色の本だ。


この本には”災厄”を押し込む力がこもっている。

そういった力を持っている人がしてくれた封印なんだそうだ。

これの所為で”災厄”は完全に現世に顕現できない。

遙香を使っているのはこのためだ。

少しでも形のあるものに宿らないと消えかねないから。


遙香を使ってできることが、自分たちの仲間を作ること。

仲間が多いほど、この封印を壊す足がかりとなる。

力押しとも言うが。



もっと簡単に封印を解く方法は、本をここから取り除くこと。



本の後ろにある空間には、亀裂が入っている。

といっても本当に壊れかけているわけではない。

現世と”災厄”のいる空間を繋いでいる穴なのだ。

ここから”災厄”は出てくるのだ。



そもそも”災厄”の元となるのは、私や咲希ちゃんといった存在だ。

奴らの甘言に惑わされ、自身の願いを叶えたいと思ってしまった人だ。

うまくたぶらかせたならば、後は簡単。

うまく制御してやれば、あっという間に封印を解いてくれる操り人形と化す。


”災厄”はこの世界を破壊するまで二日とかからない。

こんな村一瞬で跡形もなく消えてしまう。

あんなにも私を苦しめてきたこの村の最期は呆気ないものだ。

ちっぽけな世界に対して私は強い憎悪を覚えた。



おぎゃぁ、おぎゃあ、と泣く男の子。

先ほど村長自らの手で置いて行かれた子だ。

儀式の最中もずっと泣いていた。

そうかからずに泣き止んでしまうだろう。



「ごめん、おばさん」



儀式の全てが終わり、ほとんどの人が帰りだした頃。

男の子の声が聞こえた。

顔は見たくない。きっと彼だから。



「僕が二人と一緒に遊んでいれば、こんなことにはならなかったのに」



心底申し訳なさそうに謝る彼。

なんだか私も悲しくなってきてしまう。



ぽたぽた、と雨音がする。


どうやらまた、雨が降り出したようだ。

再び土砂崩れが起きてしまう。

より多くの被害が出てしまうかもしれない。



ぱたぱた。



あぁこれは。私の涙か。

そうか、そうだったのか。



何度も繰り返した記憶が蘇る。

どの時も雨が必ず一度は降った。

でも今回のようにたくさんではなかった。


この雨は、私の涙だったのだ。

私が泣いていたから、”災厄”が気を利かせてしまったのだ。


今回はもう繰り返しなんて行われないから、とても悲しいのだ。

感情は殺していこうなんて考えていたのになんて様だ。

私は無意識のうちに人を殺してしまった。

雨を降らし、土砂を押し流す結果を生み出した。

許されざる凶行だ。




「・・あはは」



もうわからない。

私の目的は何か。思いは何か。考えは何か。

どれもこれも嘘のよう。

足元から不安定になってくる。

何もない空間に置いて行かれたような感覚だ。

心がふわふわと揺れて、ざわざわと騒めく。




おぎゃぁ、おぎゃあ、と泣き声がする。




これは一体誰の声?

私?この男の子?それとも咲希ちゃん?


分からない。

でも私のするべきことはたった一つ。

この村を壊さなきゃ。


それ以外に存在理由なんてないのだから。



ごめんね、名前もない男の子。

君がこのまま生きて行く事が出来たなら、君もきっとこの世界を憎むだろう。

私たちようにこの村を滅ぼそうと考えるだろう。

でもごめん。この村は私が壊しちゃうから。

君は何もなくなったこの村で、元気に生きて。

勝手だと思ってくれていい、ふざけんなって怒ってもいい。

でもこの村は、この村だけは、絶対に私が壊すの。

何もないこの村はきっと、──何よりも綺麗だと思うよ。



神棚に手を伸ばす。

対して長くもないこの腕ではギリギリだ。

足だってそんなに長くはない。


踵を床から外し、筋肉という肉をできる限り伸ばす。

全身がプルプルする。今回もちゃんと届いて!



かたっ。



神棚に手が触れた。

もう少し、もう少しだ。




この村を滅ぼすまで、あと数センチ。






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