十三本目
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「どういうことなの、遙香」
「そんなカリカリしないでよ。いいじゃんもう一回くらい巻き戻しても」
憎しみをたっぷり込めて遙香を睨む。
”災厄”が現世に顕現する際に『遙香』という人間の体が使われる。
とうの昔に亡くなった女性らしい。
態々墓から引き擦りだしたのだ、と言っていた。
今はその事実すらどうでもいい。
遙香はいつも通りのニヤケ面で私を見る。
それは彼女の頭につけられる”災厄”と離れることのないものだ。
いつ見ても憎らしい。
「だってぇ、あの子死んじゃうんだもん。
それに最期には記憶もあいまいになって・・・・。
あんな風に壊れたものはいらないのー」
醜悪極まりない顔で尚も続ける。
聞くに堪えないほどの言葉ばかり。
あの子──咲希が繰り返せば繰り返すほど、苦しむ人が出ることを分かっていて笑うんだ。
咲希が好きで巻き戻しているわけじゃないのはとっくに知っている。
彼女はただ最愛の兄と最後まで添い遂げたいだけだ。
その途中でどうしても彼が死んでしまうから、巻き戻すのだ。
兄である明樹が死んでしまう原因。それを排除する方法を模索している。
「それに、禁断の愛なんて憧れるじゃない?早く幸せになって欲しいね」
「そうしてから絶望まで突き落すんでしょ?」
”災厄”とも言われる理由を知ったのは、遠い昔。
こいつに世話になってから。
度重なる寒さや飢えに苦しんで、世界を心底憎んだ時だった。
死ぬ寸前に遙香は訪れた。
『こんなところで寂しく死にたい?』
今思えば、きっと狙っていたのだろう。
私がイエスとしか言えないのを知っていて。
安易に復讐を考えてしまった私も悪いけれど。
「禁断の愛と言えばさー。確か好きな人、いたよね」
確認を取るように私を見る。
いらだちから、無言を貫くと肯定として取られたようだ。
「早く、幸せになれるといいねぇ。桜花ちゃん」
できることならば、こいつだけは後世に残したくない。
私が消える代わりに巻き添えにできたのならばきっと。
後悔なんてものは残らないのだろう。
本当に憎くて仕方なかったのは家族だった。
いつも辛い思いをするのは私。
他の子がしているような習い事も勉強もしたことがなく。
(今は多少は言葉を離せるようになった)
他の子が食べているようなものを一口だって食べたことがない。
(涙が出るほど美味しいものがこの世にあるなんてこと知らなかった)
私は、姉の身代わり人形なんだ。
そう言われた時の衝撃は今でも覚えている。
同じように生まれたはずなのに、こんなにも違う。
歩き方も、話し方も、知識の量も、人脈も。
全て私が劣っている。でも望んだことじゃない。
私だって努力をして、達成感とやらを味わってみたい。
綺麗に着飾って恋をしてみたい。
沢山の人と他愛無い話をしたい。
「もう無理なんだけどね」
ぽつり、つぶやく。
遙香は大人しくしている、いや寝ている。
こうしていれば只の女の子なのに。
彼女の金髪が綺麗だったから触ったことがある。
でも私が思ったような感触じゃなかった。
さらさら、じゃなくてどちらかと言えばごわごわ、だった。
なんで手入れをしないのだろうか。
きっと整えれば綺麗に見えるのに。
「・・・・おやすみ」
どうでもいいや。
だって明日の私はきっと暴走するから。
どうあがいても、私の望んだ未来からは逃げられないから。




