プロローグ・開口一番(邂逅一番)
「《天才》って何だと思いますか?」
「ああ?《天才》だぁ? お前はどう思うんだよ」
「訊いたのは僕なんですけど......」
「まず自分の考えを持ってねぇと、相手の考えに呑まれることになんだろ」
「............届かない人、ですかね」
「なるほどなぁ。あたしは《天才》の定義なんて面倒くさいからしねぇよ。定義しようがしまいが存在が揺らぐことはないんだしな。――でもまあ、《天才》ってのは、蝋燭なんだよ」
「蝋燭?」
「ああ。《天才》と呼ばれるに相応しい状態ってのは蝋燭に火がついてる状態じゃない。蝋燭に火がついた瞬間を《天才》って言うんだ。火がついてからは《天才》という名の火が燃えてるだけ。燃えてる間は囃し立てられるけどその時そいつは《天才》じゃなくて《元天才》なんだ。まあ、火が消えちまえば《廃人》って言われるんだがな。――《天才》ってのは一時的――いや、刹那的なものなんだよ」
◇ ◇ ◇
これは、僕と高宮才との会話の一断片。
お互い無為な会話が好きなので、何故この話題になったのか、この話題がどのように終結したかは解らない。だが、無意味な話で、生きていく中ではどうでもいいことなのは確かだった。
思い出してみると、気になることがあった。
蝋燭の火が完全に消えた《元天才》は、何を望むのだろうか。
一度は《天才》と囃し立てられていたのだ。
しかし時が過ぎ、《廃人》に成り下がった人間は何を望むのだろうか。また《天才》と呼ばれたいと、囃し立てられたいと、思うかもしれない。
権力欲ぐらいあったって不思議ではない。過去の栄光にすがることだって不思議ではない。――所詮は人間だ。
そんな下世話な邂逅をしていると、才さんとした無為な会話も、あながち無為でもないのかもしれないと思えてきた。
これから語るのは、天才が天才でいるための行動の物語。周りを巻き込んで、僕も巻き込まれて、結局何も生み出すことのなかった――それこそ無為な物語。