出遭い
ここはどこだろう。
重力をまったく感じない。前後上下左右という概念すら感じられない。
僕は目線を下げた。――何もなかった。自分の体も見えなかった。
手足も感覚がない。――というか、存在していない。
ただ僕という視線が存在しているだけのようだ。
しばらくすると、声が聞こえた。――どうやら耳は聞こえるようだ。
しかし、声といっても言葉ではない。獣ような叫びや甲高い断末魔が何重にもなって僕の聴覚を刺激した。
五月蝿いと感じた。苛々した。
次に、人の顔が見えた。
しかし、顔といっても表情はわからない。顔は一つ残らず男女の判別すらできないほどに壊されていた。真っ赤な肉が晒されていて、目玉はどれも虚ろだった。
醜いと感じた。益々苛々した。
すると、突然小さな光が見えた。その光はどんどん大きくなり、眩しいと感じるほどになった。
光の大きくなるにつれ、醜い顔や五月蝿い声は消えていった。
安らかな気分になった。
そうか、と僕は合点した。
あの光が僕が行くべきところなのだ。
この空間に前後上下左右の概念はない。ならば、僕自身が定義すればいい。
あの光が前だ。僕は前に進もう。
足はないが、確かに僕は前進していた。
光に目が限界まで眩み――
――僕の意識は暗転した。
◇ ◇ ◇
ゆっくりと目を開く。
白い――天井だ。僕はベッドに寝かされているようだ。
傍らに一人の少女がいた。
少女が僕の意識が戻ったことに気付いたようだ。
「目を覚ましたかにゃ?」
変わった話し方をする少女だ。
「あ、うん。僕は夢を見ていたみたいだ」
「にゃははは! そうそう、今までのはただの夢だにゃー」
「なあ、僕の名前は? 何故だか思い出せないんだ」
「君の名前は、リョースケって言うにゃ」
「............リョースケ」
「そうだにゃー。いい名前でしょ」
「じゃあ、君の名前は?」
「ボクちゃんの名前は、流神希代って言うにゃ」
そうして、流神希代は無邪気に笑った。