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魔神兵装クロガネ  作者: トロ
【落ちこぼれの手にした最強】
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第十九話【裏切り・2】


 ──何を話すつもりなのだろうか。

 宿屋を出て詰め所まで到着したアルフレッドは、わざわざ宿屋を離れるサフランの行動に僅かながら疑問を覚えたが、特に警戒するでもなく、案内されるがままに休憩所まで到着した。


「まっ、座れ」


「あ、はい」


 アルフレッドが席に座ると、サフランは予め用意していたらしい水の入ったグラスを彼の前に置くと、その対面に腰を下ろした。

 何処となく重苦しい雰囲気だ。肌を刺すような嫌な空気を感じながら、話さずにこちらを静かに見据えるサフランの視線に耐え切れず、アルフレッドは水を一口した。

 そこでようやく、サフランは重い口を開く。


「それで、準備のほうはどうだ?」


「えぇ、まぁ。あいつのおかげで荷物は少なくすんだので、準備は直ぐに終わってしまいました」


「そうか……」


「それで、一体どうしたんですかサフランさん。わざわざここまで連れてきて」


「あぁ……」


 サフランはアルフレッドに視線を合わせずに、自分の分の水を一息で飲み干した。


「サフランさ──」


「あのお嬢ちゃん。装着するには身体を接触させる必要はあるのか?」


 まるで苦い物でも咀嚼したような表情を浮かべるサフランに何か言おうとしたアルフレッドだが、それよりも早くサフランがそんなことを聞いてきた。


「それはどういう……」


「いいから、答えてくれ」


「……まぁ、そうですけど」


 有無を言わさぬサフランに押される形でアルフレッドは答えた。

 それを聞いて、サフランは安堵したように溜め息を吐き出すと、続いて「悪いな、アルフ」と、唐突な謝罪を口にした。


「え?」


 どういうことだ?

 そう問いかけようとしたアルフレッドだったが、突然、その視界が大きく歪み、とてつもない睡魔が襲い掛かり、転がるようにして椅子から崩れ落ちた。


「これ、は……?」


「……悪いが、こういうことだ」


 瞬間、サフランがいつの間にか手にしていた小型の通信用魔法具を取り出して「制圧した。入れ」と誰かに向けて呼びかけた。

 すると勢いよく扉が開き、休憩室の中に軍用のライフルで武装した帝国の兵士達がなだれ込む。

 朦朧とする意識の中、自分の周囲を取り囲む兵士に銃口を向けられたアルフレッドは、未だ状況を理解できていないまま、霞む瞳で椅子より立ち上がったサフランを見上げた。


「な、ん……で」


 アルフレッドの問いかけにサフランは答えない。ただ静かにこちらを見下ろすその冷たい瞳に晒されながら、その意識は途切れてしまった。


「よし……援護ご苦労。もう一人の目標は?」


「サドン二機と二個小隊で該当の宿屋を制圧しに行きましたが、目標の姿は見られず、現在近辺を捜索しています」


「急ぎ発見してくれ。ただし、捕獲にはくれぐれも気をつけろよ」


「ハッ!」


 兵士達は敬礼を一つすると、水に投入した睡眠薬で意識を失ったアルフレッドを肩に担ぎ、休憩室を後にした。

 そして休憩室にはサフラン一人だけが残される。過ぎ去った嵐の後のような静寂の中、サフランは己を嘲るように笑みを一つ。


「悪い……とは思うが、お前達は危険すぎる」


 力を手にし、理想を掲げたアルフレッド。だがもしそんな彼が帝国のやり方に不満を持ち、その力を振るうことを考えれば野放しにすることは出来ない。

 だからこそ、サフランは避難先の補給基地から、彼らの制圧をするようにと頼んだ。

 動かせるサドンを五機。大型魔獣は相手取れないが、ゴブリン等の魔獣ならば十二分に対応が可能な完全武装した兵士を一個中隊。ワームの軍勢を容易に打倒できるほどの戦力を投入できたのは、数日前のアルフレッドとクロガネの大立ち回りを、サドンのカメラで録画していたからである。

 その映像をサフランはその日のうちに補給基地に送った。一応、補給基地という名目をとっているが、そこは魔獣の危険が多いこの幻想世界で、各地に武器やアインヘリアを送る基地。保有する戦力は桁違いかつ、各地の窮地へと派兵してきた経験があることから、サフランが撮った映像の恐ろしさをいち早く把握し、アルフレッドとクロガネが倒したワームの群れすら殲滅できる軍勢を投入したのだ。

 『喪失された秘術』に対する兵士達の認識は共通している。戦局を変えるほどの技術である一方、悪用されれば自国に災いをもたらす厄となりえるのだということを。

 それはサフランも同じことだ。あの時、ワームを殲滅したアルフレッドとクロガネに感じたのは、助けてくれた感謝以上に、一個人が保有するにはあまりにも危険すぎる戦力への危惧だった。

 決め手は、本来は高度なプロテクトを掛けられているため、登録された魔奏者しか搭乗できないアインヘリアを、大破していたとはいえ掌握し、あまつさえ破損部分を補強して立ち回ったこと。

 つまり、クロガネという兵器は、帝国のアインヘリアを強制的に操れるのではないかという不安。


「拙速だが、お前らが消えた後じゃ遅すぎるからな」


 恨みたければ、恨んでもいい。

 だがサフランは子どもを見守る大人以前に、帝国を守る兵士であった。

 たったそれだけ。

 だから、彼らを放置するわけにはいかなくて。


「だっていうのにな……」


 こんなにも苦しくなるのは何故だろうか。

 罪悪感を覚える権利すら自分にはないというのに。今更、あの理想に燃える少年の道を阻んだ己の愚かに嘆く自分にこそ、サフランは憤りを感じるのであった。






理想と呼んだその願い。

希望と掲げたその誓い。

眩いばかりの光で満ちた君の思いは、今に重ねた事実に揺らぐ。

放つ言葉は痛みと同義。抉れる心で涙を吐き出せ。


第二十話【無力】


これだと叫ぶ理想も霞み、明日へと掲げる希望もない。

圧し掛かる今とこれから。思いも、力も、どちらも欠けた君から溢れる、涙の弱さは静寂(こうや)に消えた。

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