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魔神兵装クロガネ  作者: トロ
【落ちこぼれの手にした最強】
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第十八話【緩やかなる朝・2】


 魔神兵装クロガネ。

 現在はパイロットスーツのみしか使えない状態ではあるものの、再度の着装後、アルフレッドがクロガネより詳しく教えられたスーツの仕様は、パイロットスーツとしては破格の性能であった。

 まずは身体能力。ワームの触手の刺突にもある程度なら耐えられる頑強さ。スーツ自体にかけられたあらゆる補正機能により、素の身体能力も、敏捷に力、共々、強化魔法を使った魔法使いを上回る能力を発揮する。反射神経も、スーツを通して体内の電気信号と連動したアルフレッドの思考速度は、先の戦いの通り、ワームの触手を見切ることはおろか、連動がさらに深まれば弾丸を見切ることも出来るだろう。

 そして兵装だが、これは最初の着装時、アルフレッドが持っていたLMBの弾頭に使われていた『呼吸する鉄』を魔力によって増幅、再構築し、彼の装備していたリボルバーとナイフの性能を向上させたものだ。着装を解除すれば元のリボルバーとナイフに戻るが、再構築時に『呼吸する鉄』で作り直したため、リボルバーはさておき、ナイフの切れ味が増したのはアルフレッドにとって嬉しい誤算だったといえる。

 使用する弾丸も、取り込んだ呼吸する鉄によって作り出しており、魔力が続く限りは弾丸を作ることが可能、実質、無限に弾丸を撃つことが可能となっている。

 ナイフは魔力をこめればこめるほど切れ味が増すため、ワームの甲殻程度なら斬り捨てることが可能だ。

 そして肝心の魔法は──


「『穿て、一握りの灯火よ』!」


 アルフレッドが唱えた言語にクロガネの魔力が浸透し、一抱えほどの岩くらいの大きさの炎が顕現する。

 サドン搭乗時は我武者羅だったために実感は薄かったが、こうして改めて魔法を己の意思で扱えることに、アルフレッドは感嘆していた。


「意志伝達は問題なしだな。お前の抗魔力体質がどのようなものか、まだ正しくは把握しておらんが……私の魔力に汚染されるような傾向が見られない以上、問題はないとみてよいだろう」


 立体映像となって着装したアルフレッドの隣に浮遊するクロガネは、顕現した炎と、彼女自身が把握するアルフレッドのバイタルを確認してそう言った。


「でも一体どういう原理なんだ? 電気がどうの言ってたけどさ」


「これについてはまぁ詳しく語るのはお前には難しいだろう。だが一ついえるのは、私自身の機能として、誰かの意志なくして己の力を行使することが出来んということだ」


「あくまでお前は媒体だってことか?」


「実際はまた複雑だが、まぁそういう考えでよい。お前が知っておくことは、本来、私を媒体として使った場合、お前に流れて体を汚染するはずの魔力をお前は一切受け付けないということだけだ。常人なら、こうして魔法を使用することはおろか、着装時の魔力放出で命を失うことになる。意志伝達に電気的な繋がりをしておるが、それにしたって私とのラインが繋がっている場合、本来ならそこから流れる微弱な魔力でさえ、人体には有毒だ」


 そう考えると、封印を解いたとき、自分はかなり危険な橋を渡ったのだなとアルフレッドは思う。

 だが細かい原理は知らずとも、クロガネを使えるという事実だけが今のアルフレッドには重要だ。


「一先ず何個か魔法を試してみよう。あんまり派手なの使うとまたワームが来るかもしれないしな」


「心得た。本当は魔法の並列同時起動まで試したいところだが、それは追々練習を重ねて会得していこう」


「何を言ってるのかわからないが……先は長いなぁ」


 パイロットスーツの機能を使いこなすのさえも一苦労だ。

 これではクロガネの体を回収したとき、それを使いこなせるかどうかすらわからないだろう。

 前途多難に面食らいつつ、しかし自身が魔法を扱えているという事実に高揚しながら、アルフレッドは覚えている幾つかの魔法を試すことにした。


 そして訓練を開始してから一時間。すっかり朝日も出たところで、アルフレッド達は一旦訓練を終えることにした。


「言語魔法、そして術式魔法。いずれもこれまで魔力を扱えなかった者とは思えん精度だったぞ」


 着装したまま帰路を走っていると、クロガネが感慨深げにアルフレッドを賞賛した。


「まぁ、人一倍勉強だけは欠かさなかったつもりだからな。言語の理解や魔方陣の製作は何度も何度も行ってきた」


 アースフォーリアで使用される魔法は、大まかに分けて二つの体系に分かれている。

 まずは言語魔法。意味を持った言語に魔力を乗せて現実と成すこの魔法は、紡ぐ言語に対する理解力がなければ、例え魔法を使用出来るほどの魔力を有していても発動することは出来ない。ただ後述する術式魔法と違い、魔方陣を描く必要のないこの魔法は、戦いの場においては即効性や利便性を考慮して特に重宝される魔法だ。

 続いて術式魔法。これは、魔方陣と呼ばれるそれ自体が意味を持つ図形に魔力を通すことにより、その意味を現実と成す魔法だ。こちらは正しい図形を描き、そこに必要な魔力を通せば理解力は必要ではない。勿論、脳裏のイメージが強固であれば威力は増すため、ただ覚えればいいわけではないが、使用のし易さで言えば言語魔法よりも遥かに上だ。ただし図式を描く必要があるため、言語魔法に比べるとこちらはどうも即効性や利便性に劣っていると言ってもいい。だが、体に図式を直接刻んだりすることで、即座に魔法を行使出来るという利点もある。

 その他、魔法の体系は錬金術や自然魔法などといったものが幾つか存在するものの、主流となっているのはこの二つである。

 どちらともに使いやすさの点でその他の体系を凌駕しているため、魔法学校などで習うのも主にこの二つについてだ。

 そして、これら二つは個別に使うだけではなく、二つを合わせることでより効果的な魔法を操ることが出来る。


 ちなみに、魔法具と呼ばれる魔力を通すだけで使用可能なありとあらゆる道具は、この術式魔法を応用した技術で作られており、アインヘリアはこれを用いて、登録された魔方陣を増大させた魔力で直接空間に図式を描き、ソードシリンダーなどの武装を召喚することが可能としている。


 閑話休題。


 今回アルフレッドが使用したのはこの二つであり、どちらも事前に勉強をし続け、常にイメージや理解することを怠らなかったアルフレッドは、殆ど初めてながら容易く魔法を使うことに成功してみせたということだ。

 積み重ねてきた時間は決して無駄ではなかった。そのことに内心で喜びを噛み締めつつベースまで戻ると、サフランとばったり遭遇した。


「あ、サフランさん。おはようございます」


「おう脆弱サフラン。おはよう」


 そこで着装を解いた二人は気楽な感じで挨拶をするが、その声に反応したサフランは大げさなくらいに反応した直後、取り繕ったような笑みを浮かべつつ嘆息した。


「ったく、何処に行ってやがった? 心配したじゃねぇか」


「あはは、すみません。一応、クロと秘密の特訓みたいなことをしてました」


 心配していたという一言に申し訳なさを感じつつ、軽い感じで返事をするアルフレッド。だがサフランは尚も何か言いたそうに口をまごつかせ、再度、溜め息をついた。


「まぁ無事ならいいんだ。一応、昨日の今日だからな、何処か行くなら俺に報告してからにしてくれ」


「すみません」


「それで? どんな秘密の特訓をしたっていうんだよ」


 サフランは途端に怪しい笑みを浮かべて、クロガネに聞こえないようにあそっとアルフレッドに舌打ちする。

 やっぱり勘違いしている。アルフレッドは呆れつつ、顔を寄せるサフランの肩を押して「下世話な特訓じゃないのは確かですよ」と突っぱねた。


「なんだいつまんねぇの。まっ、大方あの姿での動きの確認ってところか? 朝から良くやるねぇ」


「ただのんびりしてるだけなのは嫌ですから」


「そうだの。私ものんびりしているのは性に合わん」


 クロガネもアルフレッドに続けて同じことを繰り返す。

 ホント、真っ直ぐな奴らだな。

 内心でその真っ直ぐさに呆れと羨ましさを覚えつつ、サフランは「明日には出て行くんだ。少しくらいのんびりしておけよ」と言って二人を置いてその場を後にした。


「ふむ」


 その後姿を見送るクロガネの意味深な表情にアルフレッドは気づいた。


「どうかしたか?」


「いや……なんでもない。お前があの脆弱サフランを信用しているのは知っている。ならば私のこれは杞憂というものだろう」


「どういうことだ?」


「何さ、些事だよ──それよりアルフ、朝食がまだだったろ! 今日は何を食べるのかの!?」


「生憎と豪勢なものはないからな、昨日と同じで黒パンと干し肉程度──」


「ワーイ! ご馳走だ!」


「……正直、お前の境遇は泣けてくるよ」


 黒パンと干し肉だけで小躍りするクロガネを哀れむような眼差しでアルフレッドを見下ろす。いや、そもそも一昨日、水を飲んだだけで感動していたくらいだ。信じられないくらいの長い年月を生きてきたが、その実、クロガネという少女は、見た目どおりか、あるいはそれ以下の精神年齢なのかもしれない。

 特に食事に関してはそれが顕著だ。無邪気なはしゃぎっぷりを見ながら、確か蜂蜜がどこかにあったはずだよなぁとアルフレッドは思案するのであった。




平穏は続かない。

或いはそれこそ荒野の規律か。大いなる力が引き寄せる因果と感情。錯綜する現状に抗うことも許されず、激動たる今が君の前へと立ちふさがる。


第十九話【裏切り】


無数と囲む鋼鉄の兵団の中、是非も問わずに断ずる大人に飲み込まれ、それでも手を伸ばす意味を君は知っている。

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