プロローグⅡ【荒廃世界アースフォーリア】
百年戦争。
今よりおよそ五百年以上前、アースフォーリアと呼ばれるこの世界の中心に位置するバルド帝国によって引き起こされたこの戦争は、世界全てを巻き込む大戦となり、文字通り百年もの間世界中が混沌と化した。
バルド帝国が周辺国家に取り囲まれた場所にあり、当初は直ぐに資源も人材も枯渇した帝国の敗北によって収まると思われた戦争が百年も続いた理由は、只一つ。当時、バルド帝国の領土内で見つかったとされる希少物質、魔力増幅結晶『ハーツ』を動力として加工したエンジン『レギオン』を搭載した人型極大魔法具、増魔兵装『アインヘリア』の活躍によるものだ。
乗り込んだ術者の魔力を何十倍にも増幅させ、普通なら使用が困難である魔法や魔法具を扱うことが可能となったアインヘリアによって戦況は泥沼化、人員と資材で劣る帝国と、その他周辺国家との大戦は百年の混迷を極めることになる。
その結果、長引く戦乱により国土は荒れ、治安は乱れ、人々の心は病み、盗賊や魔獣による被害が相次ぎ、次々と小国家から消滅していく中、世の乱れを正すために十二人の英雄が現れた。
諸悪の根源である帝国より離反した、アインヘリアを操る十二人の『魔奏者』。彼らが操る最高位のアインヘリア、『魔王兵装』の活躍により戦況は一転、追い詰められたバルド帝国の頂点、百年を生きた不老の皇帝であるバルド・ナインヴァイルは、暴走させた複数の魔王兵装級アインヘリアによる自爆で、首都もろともこの世を去った。
そしてようやく世界に平和が訪れ、戦後処理の結果バルド帝国より各地に配置されたアインヘリアの解析は始まるが、当時の技術者は誰もその実態を解明することは出来なかった。
現行の人類の魔法科学では解析することが出来ないとされる『喪失された秘術』。
アインヘリアを含め、バルド帝国が残した幾つもの魔法技術を指して呼ばれるこれらの魔法具は、五百年が経った今でも殆ど解明が進んでいなかった。
しかし今より数十年前、ようやく現存するオリジナルのアインヘリアを元に、魔術兵装と呼ばれる量産型が完成することになる。しかしそれはオリジナルのアインヘリアの中でも最下級である魔人兵装にもまるで及ばぬ性能しか発揮出来ていなかった。
だが現行のありとあらゆる兵器を凌ぐ性能を誇る量産型アインヘリアを得た国家は、かつての戦争の痛みを忘我したかのように、再び銃火の奏でる地獄へと身を投じることになる。
五百年かけてようやく回復してきた土地を復興させることや、未開の土地を開拓するより、他者の持つ土地を奪ったほうがいい。あまりにも安直な理由から始まった戦争は、いつしか世界全土に広がる。
争いは争いを、鉄火と硝煙、魔力の閃光が新たなる憎しみを育み、止まらない復讐は終わることなき闘争を演出する。
そして、量産型アインヘリアが戦場に投入されるようになってからさらに二十年の月日が流れた。
最早何故争うのかという理由すら人々が忘却し始めた世界。アースフォーリアに最後まで残った二つの国家、アリストテリア帝国とノーガルド王国は、未だその境界線上でアインヘリア同士の闘争を繰り広げていた。
理由など忘れた争いは、痛みと疲労は荒野に姿を変えて人々の背中に重く圧し掛かる。誰もが下を向いて、ただ今を生きることだけに苦心する毎日を送る中、それでも未来を担う若者は生まれていた。
荒野に生まれ、荒野に生きる若者達、アルフレッドもそんな若者の一人だ。貧しい家に生まれた彼は、幼少の頃に親を失って以来、たった一人で無法の荒野を生きてきた。
そんな彼の夢は、いつかアインヘリアのパイロットである『魔奏者』になり、鋼鉄の砦になることだ。
人々を守り、争いを無くす鋼鉄の『英雄』。
それは子どもらしい無垢なる願い。現実を知らないからこそ掲げた理想論。
だが、何よりも高潔な信念を宿した少年は行く。その夢を叶えるための力こそ、最悪に至る禁断の力だと知らずに。
これは、『英雄』になろうとする落ちこぼれの少年と、全ての争いの根源となった嫌悪すべき『魔神』の少女が刻む、荒野を疾走る鋼鉄の物語だ。
荒廃に飲まれ行く世界。
失われた光は砂塵に飲まれ、踏み出す一歩も定かではない。
そんな場所に、少年は立つ。
第一話【英雄を夢見る落ちこぼれ】
鋼鉄の英雄を追い続け。
今は我武者羅に、無力を知りつつ、疾走りだせ。