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魔神兵装クロガネ  作者: トロ
【落ちこぼれの手にした最強】
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第十三話【死闘・1】


 各システムのチェック。四肢の関節、特に無理をさせた両足の関節部分を構成する『呼吸する鉄』に重点的に魔力を送りながら、サフランは全速力でサドンを遺跡周辺に向かわせていた。

 出動から僅か二十分。その間にベースを踏み荒らさんとしていたワームの群れを殲滅し、こちらに撤退している魔道車と合流。そして彼らの護衛無しでも戻れるという言葉を信じて、全速力で現場へと向かっていた。

 幾らアインヘリアの性能が、巨大魔獣では最下級に当たるワームを遥かに凌駕るす能力があるとはいえ、五匹ものワームを纏めて相手するのは普通の兵士では難しい。それを二十分たらずで殲滅し、ほぼ無傷なのは、サフランが卓越した技量の持ち主だということを表していた。

 だがどんなに優れた個にも限界はある。勝負を急ぐあまり、無駄に魔力を消耗してしまった。


「落ち着け……焦るな……」


 自分にそう言い聞かせていると、通信が入ってきた。


『セイム一級従騎士の所在を確認! そのまま西に直進してください! 三十秒後、接敵!』


「なんとなく見えてるよ!」


 モニターの望遠機能を最大にして、遠くの砂煙の正体を捕捉する。個人携帯できる魔力砲撃では意味がないと知りながら、ワームの注意を引くためだけに何度もその甲殻に砲撃を放つ部下の姿。そしてワームの触手を巧みに回避する魔道車の軌道。

 その背後で暴れ狂うワームをサフランは見た。魔道車との距離は殆どない。少しでもスピードを落とせば、そのままワームにひき潰されるのは目に見えていた。


「あいつらにこっちのことは!?」


『伝えました! 動きを合わせるとのこと!』


「やれるのかよ!」


『こちらでやり方は伝えます!』


「任せた!」


 荒野を疾走しながらラインライフルを両手に召喚。腰溜めに構え、ワームの真正面に回りこむ。あちらも既にこちらに気づいているだろう。ワームは気づいたところでどうこうというわけではないだろうが、関係ない。


「こっちを信じてそのまま進ませろ!」


『了解! 三号車! そのまま真っ直ぐ走れ! 繰り返す! そのまま真っ直ぐだ!』


 張り詰める空気。高速で二つの巨躯が迫る間に挟まれた魔道車のドライバーの緊張が伝わってくるようだ。

 タイミングを外せば、ワームとアインヘリアの間に挟まれた魔道車は中の兵士ごとスクラップと化すだろう。

 勝負は一瞬で決まる。迫り来るワームと魔道車。それらを見据えたサフランは、極限まで意識を集中させ、ラインライフルの銃爪を引いた。

 産み出された白銀の流星群が、魔道車の頭上を通り過ぎてワームの複眼に突き刺さった。悶絶するワームの動きが僅かに鈍り、魔道車との距離も開く。


「おぉ!」


 その隙を縫うように、サフランはラインライフルを槍に見立ててワームに投げた。

 加速されたライフルは、魔道車とワームの間を遮って荒野に突き立つ。長大な銃身に激突したワームの動きが停止した。同時にライフルも大きく曲がり使い物にはならなくなるが、これでいい。


『三号車! 離脱!』


「これでぇ!」


 空いた掌にソードシリンダーを召喚、ローラーに余剰魔力の全てを叩き込んで加速したサドンは、動きの止まったワームの横を抜ける形で、すれ違い様に白色の刀身を振りぬいた。

 醜悪な見た目と同じく、不快な体液と臓物を撒き散らしてワームは倒れる。確実にトドメを刺すべく、その脳天に刀身を突き立てたところで、ようやくワームはその動きを停止させた。


『おい! 無事か!?』


 サフランは外部スピーカーで魔道車に呼びかけた。走ってきた魔道車の荷台から兵士の一人が手を振っている。だがその表情は助かった安堵があまり感じられなかった。


『セイムは?』


「サドン大破時、頭部とコックピットが吹き飛んだ拍子に外に吹き飛ばされたので走りながら回収しました」


『ワームにやられたのか』


 サフランはそう結論しようとしたが、兵士の「いえ、そうは見えませんでした」という言葉に首を傾げた。


「どういうことだ」


「はい。一度ワームの奇襲で腕を破損はしましたが、そのワームを撃破した後、突如頭部が爆発したんです」


『頭部が爆発?』


「そうとしか……すみません、魔法に関しては詳しくないため、実際に何かを受けたとされるセイム一級従騎士が気絶している以上、俺達では上手く話せません」


 バツが悪そうに視線を落とす兵士だが、それを責めるつもりはサフランにはない。

 突然サドンが爆発するなどありえない。確かに旧式だが、構造が単純で、パーツも豊富にあるため、大戦初期ならいざ知らず、現在では整備不良で動かない、ましてや爆発することはないはずだ。

 とすれば、何かしらの襲撃があったと見るべきだろう。サフランはそう推論してから、兵士達を労うように優しく語りかけた。


『……そうか。いや、ご苦労だった。しかし意外というか、よくそんな危険を冒したな』


「口は悪いですが、仲間ですしね。見捨てたとなったら寝覚めが悪いですって」


 魔道車の助手席に乗せられているセイムを最大望遠にして確認する。全身の至るところから血を流してはいるものの、奇跡的に深い傷はないようだ。

 彼から直接聞き出してから遺跡方面に向かうほうが確実かもしれないが、いつ遺跡のワームの牙がベースに向かうか分からない以上、早々に向かうべきだろう。


『すまんが、先にセイムをベースに送ってくれ。俺は遺跡に残っているワームを駆逐しに行く』


「了解」


 走り去る魔道車を数秒ほど見送ったところで、サフランは改めて気を引き締めなおして魔道車とは反対方向にサドンを走らせた。


「補助腕稼動。シールド、展開。」


 念には念を入れて、サフランは肩のジョイントに装着する補助腕を二つ召喚した。その手にはサドンを隠すほどの巨大な盾が二つ握られている。

 第一世代であるサドンの補助腕は、攻性魔法の反応に対してしか動かない単純な構造である。普段は思考操作で動かすため、戦闘中などはそちらに思考を裂く余裕がないため、死角を最初からカバーするように動かしておくのが基本だ。戦闘中に補助腕も扱える魔奏者も居るには居るが、生憎とサフランはそこまで思考分割が得意ではない。

 補助腕も『呼吸する鉄』で構成されている以上、使用魔力量が増えるためあまり使うことがない。だが、前線の兵士と比べても遜色ない実力のあるセイムがやられたのを考えれば、警戒しておくにこしたことはないだろう。

 シールドは、功性魔法、あるいは盾の表面に一定以上の衝撃が与えられたとき、児童でアインヘリアに蓄積された魔力で表面を硬化する機能がある。障壁が苦手なサフランにとっては、扱える最大の防御武装だ。


「ないよりは、ってな」


 必要以上に警戒するのは、セイムがやられたということも原因の一旦だ。

 しかし、長い間戦いの世界に身をおいてきたサフランが培った直感が、腹を掻き乱すような嫌な予感を訴えかけていた。

 何かが遺跡で起きている。

 こういうときの予感はほぼ確実に当たるものだ。脳の奥と腹の底、低温で炙られているような嫌な感触をこらえつつ、サフランは遺跡まで辿り着いた。


「居やがるな……」


 前方にワームが一匹。遺跡の入り口に顔を埋めてじたばたと暴れている。その両脇に穴が二つ空いているのを確認。


「とりあえずあいつから片付けるか……!」


 勝手に動けないでいるなら好都合だ。サフランは意地悪い笑みを口元に貼り付けると、サドンをワームの背後まで移動させ、その背中にソードシリンダーを突き刺した。

 そして一気に尻の部分まで切り裂く。焦げた肉と体液が内臓と共に切り口から飛び出し、そのままワームは絶命した。


「……悪いな」


 サフランは周囲に飛び散っているワームの物ではない肉片の数々を見て呟いた。自分だけのせいとまでは思いつめていないが、その一端は確かに戦力分担を誤り、セイム一人を向かわせた己の判断にある。

 せめて今の彼に出来るのは、周囲のワームを完全に駆逐することだけだ。


『こちらベース。作業員全員の回収が完了しました』


「了解。セイムの奴らがそっちに向かっている。回収しだい、可能な限り作業員をガレージに集めてシャッター閉めて待機してろ」


『サフラン魔術騎士はどうするおつもりですか?』


「俺は──」


 モニターの右端にあるセンサーが新たな動きを探知する。接近警報、数は──


「一、二……十だと!?」


 センサーに反応したワームらしき反応の数に、流石のサフランも驚愕を露にした。既にここまで現れたワームの数ですら二桁を超える通常では考えられない数だというのに、さらなる襲撃は想定外でしかなかった。

 だが直ぐに動揺から立ち直ったサフランは、地中を掻き分けて迫り来るワームの影を見据えて覚悟を決めた。


「オペレーター! 緊急事態だ!」


『どうしました!?』


「センサーにワーム反応、数は十!」


『十匹!?』


 通人越しにも分かるオペレーターの動揺を感じる。だが上官であるサフランはあくまで冷静に命令を下した。


「お前らはセイムを回収次第、ベースを放棄。急いで近くの補給所へ向かえ。あそこならワームの十や二十くらい問題ないだろう」


『サフランさんは!?』


 階級を呼ぶのすら忘れるほどに困惑しているオペレーターを落ち着かせるべく、サフランは砕けた口調で語りかける。


「安心しろ。時間を稼いだら俺も直ぐに合流する、死ぬつもりはないぞ」


『ですが──』


「通信終了。急げよ」


 強制的に通信を遮断して、改めて前を見る。万全の状態ならともかく、先程までの戦闘で魔力の半分を消費した今、果たして何処までやれるか。


「……『フェイク・レギオン』の貯蓄は半分、俺の魔力も半分──合わせて百パーセントだ」


 そんな単純な話ではないが、己を鼓舞するためにあえてそんな馬鹿みたいな計算を口にする。

 そして覚悟を決めた直後、サフランの目の前で巨大な砂の柱が無数も発生した。


「■■■ッッ!」


「歓迎かよ、嬉しいぜ……!」


 総勢十匹のワームが一斉にサドンに襲い掛かる。

 最高だ。肉食獣の笑みを浮かべ、サフランはサドンのローラーを回転させた。




次回も死闘なり。

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