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魔神兵装クロガネ  作者: トロ
【落ちこぼれの手にした最強】
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第八話【それはまるでありふれた物語のように】

 その日、ベースキャンプは新たに発見された遺跡の探索に殆どの者が出払ったために、人は少なかった。

 残っているのは、前回のゴブリンとワームによる強襲で怪我をした者と、駐屯兵が数人と、アインヘリアの整備兵の全員と、その魔奏者が一人だ。

 スパイクの付いた木製の杭で囲われたベースキャンプの入り口にある帝国の駐屯地。アインヘリア、サドンの整備も行うガレージも作られているため、ベース内でも大きな建造物が建っている。


「しかし、不幸中の幸いってのもあるもんだねぇ」


 今回、待機を命じられたサドンの魔奏者。アルフレッドをワームから救った男、サフラン・リーロックは、軽食を取りながら、同じく軽食を取って休憩をしている整備兵に語りかけた。


「砕けた瓦礫から、ですからね。出来すぎなようにも思えるのは、捻くれすぎでしょうか」


 整備兵は微笑しながらそう冗談を口にした。サフランもそれには同意なのか、わざとらしく肩を竦めて見せる。


「まるで誰かがあの偶然を引き起こしたってか? まっ、あの遺跡の奥に魔王兵装でも眠ってるってんなら、三文小説のネタにはなるだろうよ」


「ありがちなお話ってやつですね。まぁ、魔王兵装はないとしても、魔人兵装を見つければ大当たりじゃないですか?」


「最近、王国側の魔法兵装『クシナダ』にこっちの魔人兵装のレギオンが潰されてお陀仏したらしいからな。こっちとしては、ここらで新たな『喪失された秘術』の一つや二つほしいところだろうさ。だから、首都跡地のこっち側の戦線は我武者羅に維持してるしな」


 言い終わると、サフランは口の中の固いパンを水でふやかして咀嚼する。味はないが、腹が満たされるだけ上等だ。


「だが俺は第四世代を大量に生産したほうが手っ取り早いとは思うがね。質より量ってやつだ」


「『マルス』ですか? 確か、従来よりも魔力が少ない人間でも扱えるとか」


「オリジナルも含めて、第三世代までは魔力量がないと話にならなかったからな。特にオリジナルは、位階が上がるごとに起動に必要な魔力量も上がるっていうじゃじゃ馬だった。それが第四世代からは必要な魔力量を下げつつも、増加効率を上げたっていう最新の『フェイク・レギオン』を搭載してるらしい」


 これによって、さらに魔奏者の数は増えることになるだろう。現状、オリジナルの数で劣る帝国としては、今回開発された第四世代は、押され始めている戦局を変える切り札と見ている高官も多いらしい。


「まっ、前線に近いとはいえ、ここに居る発掘者の奴らの護衛をしている俺達には関係ないがな」


「ですね。それに、サドンも悪い機体じゃないですよ。整備のしやすさはどのアインヘリアにも負けません」


 整備兵は誇らしくハンガーで眠るサドンを見上げた。第四世代まで出てきた今、戦場や魔獣に困る人々を対象に金を稼ぐ傭兵にもサドンは出回っている。

 一般にも浸透し始めたアインヘリアであるが、それでも現役なのは違いなく、戦い方によっては第三世代相手でも善戦することが出来る。


「そうだな。そうだよな」


 サフランも整備兵の力強い言葉には同意なのだろう。何度か自分に言い聞かせるように頷いてから、最後の一欠けらのパンを放り込む。


「そういうわけで、俺らは三文小説の展開にいつなってもいいように警邏にでも行くか」


「三文小説の展開?」


 首を傾げる整備兵に、サフランは乾いた笑みを返す。


「こういう場合のお約束ってやつでな。大抵は──」


『緊急伝令! 南西より巨大魔獣ワームの群れが接近中! 繰り返します! 南西より──』


「サフラン魔術騎士!」


「わかってる! サドン、緊急発進だ! 準備始めろ!」


 けたたましいアラームの音と焦りの滲んだ兵士の声が響き渡るガレージで、先ほどの砕けた様子を一変させた二人は、淀みなくサドンの発信準備をする整備兵の下へ駆け出した。

 サフランは横に置いておいた白銀のフルフェイスヘルメットを被りながら、小声でぼやく。


「冗談じゃねぇ。これじゃ本当に三文小説だろうが……!」


 大抵の場合はピンチが訪れる。その例に漏れず唐突に現れたワームの襲撃に、サフランは背筋を走る嫌な悪寒を拭えずにいた。

 だが脅威が迫っている今、無駄な思考をしている暇はない。慣れた手つきでサドンのコックピットまで起用に昇ると、解放された胸部に体を滑り込ませた。

 直ぐに胸部装甲が閉じて暗闇が視界を埋める。


「魔力注入」


 サフランは意識を集中して体から魔力を放出した。常人では指先から微かにあふれ出す程度の魔力だが、サフランの魔力は両腕が発光するほど膨大な量だ。その全てが、搭乗と同時に両手を差し込んだ銀色の筒、『ネイルブ』と呼ばれるアインヘリアと魔奏者をつなぐ回路を流れて、その心臓たる『フェイク・レギオン』を稼動させた。

 ネイルブを通じてアインヘリアと自分が繋がる一瞬、神経接続の痛みで僅かに顔をしかめると、サドンの両目が真っ赤な輝きを放った。


「『フェイク・レギオン』起動」


 直後、全方位モニターが周囲の映像を映し出す。サドンの装甲を点検していた整備兵達は、起動を確認して急ぎ離れると、機体を固定していたアンカーを外した。


「サフラン・リーロック魔術騎士だ。サドン出すぞ」


「ハッチ解放! 全員離れろ!」


 ガレージのシャッターが開き、燃えるような太陽の日差しがサドンの体を照らす。白銀に輝く重厚な鉄の巨人は、慎重に上体を起こすと、ラインライフルとソードシリンダーを両方とも召喚した。

 そのとき、モニターの右上に見知ったオペレーターの顔が映し出される。


『敵の数はワーム五、おそらく遺跡方面に向かっている模様です。ですが、このままでは進路上にあるここのベースに激突するでしょう』


「他に反応は?」


『……既に、遺跡方面では交戦中とのこと。地中からの奇襲を受けてセイム一級従騎士のサドンは大破、現在はサドンを放棄して同伴させた魔道車に搭乗し、応戦しながらベースキャンプまで後退しています』


「セイムがやられた!? あいつワーム相手にミスったのか!? ……サドンありゃ何とかなると括った俺のミスか。──それで!? 遺跡の作業員のほうは!?」


『魔道車の荷台に載せて、殆どはベース方面に逃れています。ですが、一部、救助が出来なかった者達が居る模様……そして負傷したセイム一級従騎士の搭乗した魔道車を追っている一匹のワームとは別に、三匹が遺跡周辺に群がっています。おそらく、救助の間に合わなかった者は──』


「全滅だろうな……ならこちらに近づくワームを片付けて、安全を確保したらこっちに向かってる奴らの護衛、その後遺跡方面に向かうぞ」


『セイム一級従騎士と兵士達は?』


「ワーム一体なら魔道車で立ち回れば、一時間は何とかなるだろ。セイムの怪我の具合が心配だが、こっちの事情を報告したならあいつらはぎりぎりまで粘ってくれるはずだ。それまでにベース周辺の安全を確保する」


『もし、だからで決めるのはよろしくないかと』


 オペレーターの苦言にサフランは獰猛な笑みを返す。


「もし、だからで信じられる奴らだから託すんだ。それより、今はベースに突撃してるワームの迎撃に出る。撃ち漏らししてあいつらの帰ってくる場所まで壊しちまったら、騎士の名折れだ。それまで生きてるのを信じるしかねぇよ」


 その信頼のせいで、今回セイムを負傷させたのだが。同じ過ちを繰り返すかもしれない己のどうしようもなさに、歯噛みしたくなる気分になる。

 それでも仲間を信じることが、今出来る一番のことだとサフランは信じていた。


『了解です。幸運を、サフラン魔術騎士』


「幸運があるならワームの襲撃なんざなかったよ……サドン、発進!」


 オペレーターに軽く笑いかけてから、神経と繋がったサドンの足に装着されたローラーを駆動させる。回るローラーがガレージの床と火花を散らし、その内心の苛立ちを表すような荒々しい駆動で、サフランの操るサドンは荒野に飛び出した。






託された任。守るべき、民。

無辜と守るか下劣と下げるか、ただ前を遮る害毒は、防ぐべき災厄と知るからこそ、走る、走る。


第九話【迫る試練】


臆すことなく吼え滾り、怯むことなく剣を翳す。

だがお前は、この舞台の主役ではない。

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