プロローグ【鋼鉄の英雄】
荒野を舞台に銃声と魔法とロボットと巨大怪獣やらが荒れ狂う鋼鉄のファンタジーです。よければ一読してくださると嬉しいです。
倒壊した家屋。燃え広がる炎。肉片となった人々と、これから肉片になるだろう人々の逃げ惑う姿。
俺もまた、数秒後か数分後、肉片となって果てるのがわかっているというのに逃げていた。
背後には無数の巨大魔獣。地を這う芋虫から空を飛ぶ害虫まで、種類は数多く、それら全てが逃げる人々を食い散らし、町を崩壊させている。
地獄絵図の世界を体現した光景を背中に、涙を流しながら俺は走る。文字通り死に物狂い。死にたくないから走って、死ぬのがわかっていても走る。
そうすれば背中越しに伝わる恐怖から逃れられるのではないかと、ありえない妄想を信じていられるから。
だが現実は無情だ。突然頭上を隠した影。逃げる人々と共に空を見上げれば、あっという間にこちらに追いついた巨大な蛾の如き魔獣。
瞬間、視界が目まぐるしく回転して、何処が地面だかわかる。吹き飛ばされたと察したのは、すべてが終わった後だった。
奇跡的にも吹き飛んだ先にあった食料品の在庫に激突したおかげで怪我はなかったが、それでも体を貫いた衝撃は、幼い俺を動けなくさせるには充分だった。
激痛に泣き、恐怖に泣き、揺らぐ視界で見たその先、絶望によって俺は泣き止んだ。
目の前で餌として食い荒らされる人々。赤子がするように、口元らしき部分を肉と鮮血に染め、ぐちゃぐちゃと音を立てて食べ続ける姿を見る。
幼いながらに、あぁ、もう駄目だろうなぁ。なんて、妙に達観してしまった。
本物の絶望に遭遇すると、人は絶望に屈するという意識すら忘れるらしい。気力を一切失った俺は虚ろな眼差しでそのすべてを見届けていた。
逃げることも出来ない。
そも、何処に逃げればいいのかわからない。
そのうち、食事をしていた魔獣の一匹がこちらに気づいて近寄ってきた。
その醜悪な姿と、咽るような血の香りを感じても、一切俺は動揺もしなかった。
ただ、自分も食べられるんだろうなぁ、なんて。
とても当たり前な死を思い、冷えた心のまま、俺は俺が食事されるのを受け入れた。
──瞬間、閃光が目を焦がした。
それは、冷えた心にすら届くほどの熱を纏いながら現れた。
一瞬にして目の前の魔獣を引き裂いた鋼鉄の腕。閃光を両手からあふれ出して、まるで巨大な砦のように、俺と魔獣の間に立つ。
鋼。
雄雄しき、鋼鉄。
堅牢と立つ人を模した巨人から、廃棄熱のように膨大な魔力が溢れる。発生した熱気が体を熱くさせた。虚ろな眼に火が灯った。
その日、俺は『英雄』の姿を見る。
それはきっと揺らぐことのない背中に憧れた。
だから俺は、人々を守る鋼鉄の英雄になるのだと、熱を与えられた心臓に誓いを立てるのだった。