悪霊になった娘
暖かい太陽の光が、私を優しく包んでいる。とても眠いけど、凄く幸せ。
暖かい太陽とは裏腹に、深海のような真っ暗な世界に、私は落ちていった。
目が覚めたとき、私は雷に打たれる様な衝撃に襲われた。
女子らしさのカケラもない部屋はいつも以上に散らかっていた。雑にしまっていた本棚は倒れていて、大切にしていたアニメのフィギュアなども床に散らばっていた。大体が破損していて、泥棒に入られたのかと考える。
呆然としていると、隣の部屋から聞きなれた声が聞こえた。散らかっている足元に気をつけながら歩いているとき、少し違和感があった。けれど、声がどんどん大きくなっているのが気になり、さっさと部屋から出ていった。
「やめろ! やめろ、明嶺!」
「離せ! 離せよ、触んな!」
パパ様がママ様を必死に止めていた。少し視線をずらすと、天井から輪っかが出来ているロープが吊るされていた。どう考えても一つのことしか思いつかない。......自殺するつもりだ。
「やめて! ママ様!」
私は大声を上げながら、ママ様に抱き着こうとした。しかし、それは出来なかった。普段なら絶対聞こえる声のはずなのに二人は話続けていて、抱き着こうとした体はママ様を通り抜けていた。
「ぇ?」
あまりにも情けない声が出てしまった。なぜ、すり抜けた?普通じゃ有り得ない。
「ママ様? パパ様? ねぇ......」
二人に声をかけるものの、全く気が付かないというより"私がいない"ような感じだった。
「離せ...。私は、死ぬんだっ。独りぼっちにさせてたんだ」
ママ様の手には、見覚えのある手紙。それは、私が"死ぬ前"に書いたものだ! ......私、自殺したんだ。モヤモヤした真っ黒な気持ちが、煙のように浮かび上がる。
私は中学生になったのにも関わらずママ様にベッタリだった。正しくいえば、中学生になって初めてママ様に甘えることが出来るようになった。元父親の借金を返すため離れて暮らしていたが、借金の支払いが終わり暮らせるようになった。しかし、そんな生活も3ヶ月で終わりを告げた。
今のパパ様と知り合い再婚。私がママ様に甘えようとするとパパ様は嫉妬するらしく、必ず間に入ってくるようになった。
気がつけば、二人と私の間には大きな壁が出来ていた。パパ様のことは嫌いだったけれど、ママ様が幸せならと思い込み平然を装った。
二人はだんだん私を見なくなっていき、家で独りぼっちになっていた。なかなか話す機会もなくて......どこかで手紙を書いて渡すといいと聞いたのを思い出して、書いてみた。
《辛いよ。もっとママに愛されたかったよ。パパ様ばっかりで、嫌だよ。ママに抱きついていたかった。
いつの日かパパ様に『いい加減甘えるな』なんて怒られた。ママも頷いてた。私、もう、大人にならなくちゃいけないの?なりたくない。大人になるくらいなら、死んでやる。死んでやる。》
私の気持ちを詰め込んだ、メチャクチャな手紙。パパ様とママ様に渡したら、読まずに二人してゴミ箱に捨てていた。
この時、私は要らない子なんだって。邪魔な子なんだって、思った。
精神的にもうキツかった。独りぼっちにされて、幸せそうな二人をみながら指をかじるのは惨めだ。
ママ様の薬箱に入っている睡眠薬剤を全て取り出し、日光の当たるところに布団を敷いた。睡眠薬を過剰摂取すれば死ぬことくらいは知ってる。しばらく不眠が続いていて眠りたいと思っていた。ママ様から貰った思い出のぬいぐるみを隣に置いて、薬をありったけ飲み込んで......。
それなのに、なんで意識があるの?
ママ様は泣きつかれたのか眠っていた。パパ様は背中を優しくトントンしながら、小さくため息をついて口を開く。
「マザコンにも程があるだろうよ。俺の方が愛されたことないのに。邪魔なヤツが消えてよかった。これで、俺だけを見てくれるよな、明嶺」
甘ったるく、勝ち誇ったような声が耳に残る。気持ち悪い。
死ぬんじゃなかったと思った。こんなヤツのために死んで、ママ様を渡すなんて......。
後悔と嫉妬を抱きながら、私は二人が死ぬまで後を追い続けた。
いつか取り返してしてやる、同じ思いをさせてやる、と強く誓い(呪い)ながら。




