未来の金魚すくい
突然タイムスリップする癖のあるあたし。今回はどうも三十年程度未来に来たみたいだった。
どうせ十分くらいすればいつものように元の世界に戻れるのだからと、この世界を満喫することにした。親からはいつも、「未来に行くんなら、当り馬券でも調べてくれば良いのに」とかからかわれるけどそんなに都合良くはいかない。何せ時間は限られている。手近にある未来っぽいことを楽しむのが精一杯なのだ。
今回は神社にいたこともあり、あたしは同じ神社にいる。秋大祭を告知する貼り紙を見ると、平成三十九年度。周りは秋祭り真っ最中の盛り上がり。こりゃ、楽しまなきゃ損、損。
早速あたしは金魚すくいを発見した。
この時代に金魚すくいが残っているのにびっくりしつつも、逆にこれはラッキーと喜ぶ。元の時代でも金魚すくいはあまり見なくなっているからね。未来って、すごいなぁ。少子化なんかなんのそので子供もたくさんいる。
近寄ると、周りを取り巻く子供たちはなぜか楽しもうとせずに観客に徹しているのが不思議だけど、こちとら時間が限られている。急いで楽しまなくっちゃ。
「お代をそこに入れると、ポイが出るから」
屋台のおじさんはそう言って、そばにある機械の投入口を指差した。百円を投入口に入れると、取っ手のついた丸いポイが出てきた。ほっ。この時代、百円玉はまだ健在みたい。それはそれとして、自動ポイ出し機ってのはいかにも未来っぽいけど味がないと思う。
「頑張れ、お姉ちゃん」
周りの子供が応援してくれる。可愛いなぁ。健気だなぁ。よぉし、おネエさんが手本を見せてあげるからね!
水槽の中、無数に泳ぐ赤い金魚目掛け慎重に水にポイをつけた。狙いを一匹に定めじりじりと追い詰め、見事にすいっとすくった。
……あれ?
すくったと思ったら何と、金魚が紙をすり抜けた。それでいて、紙は破れていない。
「お姉ちゃん、それ、外れだよ」
え、え?
「金魚さがしで自信満々に一番に挑戦するから、もっとすごいのかと思ったけど……」
さっきまでの応援から一転、残念そうに子供たちが言う。
「あの、もしかして金魚すくいとまちがえてますね?」
子供たちと一緒に見ていた年配女性が話し掛けてきた。話を聞くと、金魚は数がめっきり少なくなったため今では「金魚さがし」に代わっているらしい。この水槽に無数に泳ぐ金魚のほとんどは立体映像で、その中から本物の金魚を探し当ててすくうと賞品がもらえるのだと言う。
「これじゃ、まだ頃合いじゃないねぇ」
子供たちが残念がる。どうやら彼らは、だれかが次々挑戦して本物の目星がついたところで参加する気なのだ。
「でもあなた、まだ破れてないから続けられるよ。ポイさばきはうまいねぇ」
先ほどの年配女性が励ますように言った。
よぉし、それなら破れるまでチャレンジだ!
水の中の金魚の群れをじっと見る。が、どれもこれも本物に見える。立体映像のくせに、底にちゃんと影も映っている。これは難易度が高い。
「念のために言っとくけど」
年配女性が話し掛けてきた。
「もしもうまく本物を見つけてすくっても、賞品は金魚じゃないからね。それほど、金魚はめっきり数が減って貴重になっているんだから」
しみじみと寂しそうに、年配女性が言う。貴重な金魚をこんなゲームに使っていいのか疑問に思うも、それどころではない。こうなったら意地でも手本を見せないと!
しかし、あたしのポイは無情にも破れた。
「はははは、惜しかったね」
屋台のおじさんが笑った。
「残念賞が出るから、それを受け取って」
指差す先の機械から、先の方がカメレオンの舌のようにくるくる丸まった笛のおもちゃが出てきた。悔しいながらも、未来でこんな懐かしいものに出合えたうれしさから早速吹いてみる。ぴー、ももももも、と丸まった先が伸びる。びっくりするくらい伸びる。こんなに伸びるのは、初めてだ。単純なおもちゃでも、未来ではちゃんと進化してるんだなぁと感動した。
ここであたしはちょっといたずら心を起こして、屋台のおじさんに向けて笛を吹いた。ポイが破れた時に笑われた仕返しだ。
ぴー、ももももも、と伸びる丸まった先っぽ。だが、屋台のおじさんは避けなかった。
当たった、と思ったらなんと、先っぽはおじさんの額をぐっさりと貫いた。それでいて血は出ない。どうやら、屋台のおじさんも立体映像のようだった。
「屋台を出す人も、めっきり数が減ったからねぇ」
年配女性が寂しそうに、しみじみと言った。
未来って、ホントにすごいなぁ。
にぎわう子供たちもなんだかぼんやりとして見えてきた。
おしまい
ふらっと、瀬川です。
設定的に目新しさはありませんが、ていねいに展開させてみました(設定は毎度ながら強引ですが・笑)。
では、読んでいただきありがとうございました。