我慢できなくなったら……
「って、まだここで寝るつもりかお前は……」
あれから藤咲は毎日俺のベッドで眠っている。
「問題ありますか?」
「ありすぎだ」
何しれっとしてるんだこいつは。
「知った事じゃありません」
「なっ!」
あっさりとベッドに潜り込んで眠る藤咲。
「………………」
まったく。
一日二日ならまだしも毎日これってかなりキツいぞ。
主に俺の理性が。
藤咲が泊まり込んでいるから遙のところに行くわけにもいかないし。
具体的には今の藤咲に手を出したくて仕方がない精神状態なんだが、まさか実行するわけにもいかないしなぁ。
……まあ、休日に遙のところにでも潜り込むか。
あいつなら多分休日も暇してるだろうし。
それまで俺の理性が保つかどうかが勝負だな。
「ったく」
盛大な溜め息と共に同じベッドへと潜り込む。
ここ数日で慣れてきた藤咲の感触が、なけなしの理性を刺激していく。
「………………」
藤咲のヤツ、何故か俺に抱きついてくるんだよなぁ。
誘ってるとかそういう意味じゃなくて。
単純に誰かの体温を求めてるみたいに。
今まで誰にも頼れなくて、寂しい気持ちを抱えたまま生きてきた。
初めて甘えてもいい相手を前にして、ちょっと緩んできたっていうのは、まあ、分からなくもないんだけどさ……。
……俺の理性が。
胸の感触が。
下半身のアレが。
「………………」
耐えろ俺!
ここで藤咲を襲ったらいままでの信頼が台無しになるぞ!
……いや、信頼されているのかどうかちょっと微妙だけどさ!
「うぅ……据え膳なのに……据え膳なのに……」
などと呟きながら頑張って眠りにつく俺だった。
まあ、この時点で俺の理性もマジで限界近かったってことで。
この先の展開に対して先に弁明しておこう。
わざとじゃないんだってば!
「んっ!」
朝から熱っぽい声が聞こえている。
「あっ! やっ!」
聞き覚えがあるこの声は、一体誰だったか。
まあ、いいか。
今は声の主を探るよりもこの腕の中にある温もりを堪能したい。
華奢な身体。
熱を帯びていく肌。
「んぅっ!」
唇を重ねると、吐息が混じり合っていっそう気分が高揚してきた。
「あぅ……んっ!」
びくりと跳ね上がる身体。
もっと気持ちよくしてやりたい。
この身体をもっと堪能したい。
ずっと我慢して、やっと手に入れられる。
だからもっと、優しく……
「せ……せんせ……」
「………………」
優しくしようとして、目が醒めた。
「………………」
「………………」
目の前には藤咲。
藤咲に覆い被さっているのは俺。
藤咲は半裸になっていて、俺の手はいろいろとヤバい場所にあったりする。
「ええと……」
「………………」
僅かに潤んだ瞳で、なおかつ恨めしげに睨み上げてくる藤咲。
藤咲の白い肌にはいくつか紅い花が咲いていた。
……キスマークだ。
誰が付けたかなど、今更考えるまでもない。
「うわあっ!」
自分が何をしていたのかを理解して、慌てて藤咲から離れる。
「うぅ……」
藤咲は衣服の乱れを直しながら起き上がる。
「ええと……大丈夫か……?」
恐る恐る問いかけてみる。
「……大丈夫です。途中まででしたし」
「あぐっ!」
どうやら俺は寝惚けたまま藤咲を襲おうとしたらしい。
「その……すまん……」
それしか言えない。
「別に、いいですよ。覚悟はしてましたし」
「その割には睨まれてる気がするんだが……」
「恨んでいるのは途中で辞めたからです」
「へ?」
「中途半端にアレなんで鎮めるのが大変なんですよ」
「あ……」
真っ赤になって俯いている藤咲がとんでもなく可愛かった。
「こんな状態にされるくらいなら最後までやられたほうがずっとマシでした……」
「わ、悪い……。つーか襲いかかったら急所蹴り上げるとか言ってなかったか? もっと早くそうしてくれたらよかったのに」
「…………………」
藤咲は何故か再び俺を睨んだ。
ほわい?
「そ、そうしたくても出来なかったんです!」
「?」
「せ、先生が予想以上にうまかったんで……」
「…………………」
「気持ちよくて、力が入らなかったんですってば!」
「あー……そりゃ悪かった……。うん……マジですまん……?」
「先生ってやっぱり慣れてますよね。主に須賀先生が相手でしょうけど」
「うぅ……」
藤咲はベッドから降りてから着替えのために出て行こうとする。
「あのさ、藤咲」
俺はベッドによりかかったまま藤咲を呼び止める。
「なんですか?」
「その……寝惚けたままの行動にまで俺は責任を持てないんだ。情けない話だけど」
「分かってますよ。それは私も同じですから」
「だからさ。俺の部屋に泊まるのはもうやめないか?」
「………………」
「次は多分、止まれる自信がない」
「嫌です」
「………………」
「襲いたければ好きにすればいいって言ってるじゃないですか。私も私の身勝手でこうしてるんですから、先生の性欲処理くらいには付き合う覚悟はあるんです」
「……だから、俺はお前を性欲処理を理由に抱くつもりはないんだって」
実の兄貴の性欲処理に嫌気が差して家を出てきたっていうのに、なんでその先でお前が俺の性欲処理に付き合わされるんだよ。
それはあんまりだろうが。
「大体、なんで俺の部屋で眠ることにこだわるんだよ?」
「……安心するから」
「は?」
「先生の体温が近くにあると、安心するんです」
「………………」
「……自分でもかなり不本意なんですが」
「………………」
不本意なのかよ!
「頼ってもいいとか言われたのは、先生が初めてなので。恐らくは刷り込みのようなものだと思うんですけどね。……まあ、自己分析ですけど」
「………………」
つまり、藤咲は今まで誰にも甘えたことがないってことか?
頼ったり、縋ったり出来る相手がいなくて、俺が初めての相手ってことか?
「依存しすぎるのは危険だって分かってるんですけど、今はそうしたいって思うんだから仕方ないじゃないですか」
「……お前、今すげえこと言ってるって理解してるか?」
「やかましいです。うざいです。その口今すぐ閉じてください」
「可愛くねえ!」
俺はそのまま藤咲を抱き締めてやった。
体温が近くにあると安心するというのなら、こういうのは嫌いじゃないはずだ。
「……ったく。甘えたいならもっと素直になればいいのに」
ぎゅっと抱き締めてからそのまま頭を撫でてやる。
藤咲は気持ちよさそうに目を細めた。
……なんだか子供を甘やかしている気分だ。
「……まあ、恋愛感情とは微妙に違うんだろうな、これ」
「断じて違います」
「即答すんな」
こんだけべったり甘えておいてその返答は非常に寂しい。
「……これ以上は本気で責任持てないからな。そのつもりでいるんだな」
「分かりました。その時は先生の息子のサイズでも測って桜坂先輩にリークしてやることにします」
「やめーっ!!」
なんて恐ろしいことを言いやがるんだこいつはっ!
……こんな感じで、結局俺と藤咲は同じベッドで眠る毎日を過ごすのだった。
襲いてぇ。
いや落ち着け。
リークされるのは困る。
それ以前に自分の首を絞めるって分かってないなこいつ。
畜生。
どうなっても知らねえぞっ!
……とまあ、半ば開き直る俺だった。
我慢出来なくなったらマジで襲ってしまおう。うん。
……もちろんメイド魔人には内緒で。




