ピンクのビキニ
低く地をはうように押し迫る音の波。
大好きなロックバンドの演奏をセールで買った音質最悪なヘッドフォンで聞く深夜2時。
ピンクの目にちかちかと必死にアピールをしてくるピンクのビキニを着たB級グラビアアイドルを机にあごをついて眺める。わたしの耳にはヘッドフォンをつけているから音なんてもちろん聞えない。
テレビの奥、電波でつながれた遠く離れたところでは、こんな深夜にビキニを着てがんばっている人がいるのか。
「ごくろうさまだ、ほんと。」
三本目のぬるくなったなんちゃらかんちゃらとかいうカクテルを流し込んで、また眺める。
ピンクのビキニが左右に揺れて見る人によっては妖麗に、わたしにとっては陳腐に見えるダンスを長い手足を駆使して踊っている。笑顔の彼女は少女のようにはしゃぎながら、司会者に腕をからませている。その声はわたしの耳には入ってこず、音のない笑顔の映像は不気味さを醸し出していた。
舌に残った甘ったるいカクテルが頭まで溶かしていくような感覚に襲われながら、ゆらゆらと視線を動かす。
ふと目の前に広げていた卒業アルバムが目に入る。
真黒の髪の毛を肩のあたりで二つに結びはにかむ女の子とわたしの2ショット。
確か高校最後の遠足で、場所はいまどきに似合わぬ牧場だった気がする。
写真を見る限り天気には恵まれず、曇天のもとですることもなくお菓子を食べていたのか。
「わたし、東京に行って、明るくなって、みんなを見返したいの……か」
わたしの親友はそう言って、上京し、グラビアアイドルになった。髪をそめ、化粧をし、なれないビキニを着て、今遠い電波の向こうで、こんな時間にはしゃいでいる。この写真からは誰も想像できない。
曲がサビに入ったのか、ボーカルの声がわたしの頭をシェイクした。ギターの音がわたしの酔いとおててをつないで、眠りのほうへとスキップをしだした。
相変わらず画面の奥ではピンクのビキニが揺れている。
声なんて聞えない。
ただはしゃぐ彼女の顔がいつかこちらを向いてくれるのではなんて、どうしようもない妄想に駆られるだけ。
結局、声なんて聞こえない。
「見返せたのかい、みんなとやらをさ」
飲もうと口元に運んだなんちゃらかんちゃらカクテルからは1滴だけ落ちて、空になってしまった。
狙いも定めずにゴミ箱へ投げると案の定床に転がった。
そんな深夜2時。
曲はまだ、終わらない。