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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
激闘モード
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カルタゴにて

 夏妃はカルタゴの王宮に軟禁状態であった。城の中は自由に動けるが外出は固く止められており、彼女の軍との接触さえ禁じられていた。暴虐の魔王こと一柳宗治は、カテルと蝶子に命じて周辺都市を制圧し、アビスの組織を統一しつつあった。中央にはアビスの勢力下の都市を開放するといっているが、もはや、元老院の使者や天智の魔王の使者を軽くあしらい、謀反の疑いは隠せなかった。


「確かに宗治は強いわ。周辺都市の制圧で兵力は確保したけれど、肝心の指揮官は中央に比べれば劣るわ」


 カルマは軟禁さえている夏妃の部屋を訪ねていた。確かに兵数は10万を超えるが、指揮官は宗治自身にカテル、蝶子、カルマしかおらず、兵を率いることのできる指揮官はいても一騎打ちできる人材が足りなかった。そして、一人の側室が率いられる数はヴリドラの神託で決められており、過度に兵を率いると士気喪失で戦う前から兵士が脱走してしまう。だから、補充用として待機するしかなく、中央の3魔王と相対するには3分の1の戦力で戦わねばならないのだ。無論、側室に変わって他の者が指揮してもよいが、それこそ敵側室に狙われて軍団が崩壊する危険があった。


「カルマさん、カルマさんからも言ってください。みんなの元に戻るようにって」


夏妃は今は友人になった元ライバル?に懇願した。


「御台様が言っても聞かないのに、元婚約者の私の言葉など聞くはずがありませんわ」


「では、このまま、先輩が隆介くんや元馬くんと戦うのを見るしかないのですか?」


「いや、それはごめんだわ。味方同士でって、冗談じゃないわ。それにあなたの弟の軍団とは戦いたくはないわ。弟本人はともかく、正妃、側室ともかなりの手練れと言うし…」


(弟…)


夏妃はイレギュラーの魔王と言われている元自分のことを思い出した。いつぞや心に住み着いたあの男。分離した今、不思議な感じがするが弟とはいっても赤の他人ぐらいの気持ちではあった。魔王とは言ってもこれといった力の覚醒はなく、できることといったら、女の子の潜在能力を引き出すだけである。まあ、自分も正妃とはいえ、立松寺のように攻守に優れた戦士には遠く及ばないが、それでも絶対回復の力があることが、今の状態を作っているのではあるが…。今の状態…つまり、宗治は自分を絶対手放さないだろうということだ。最後の切り札としてはこれほど反則なジョーカーはないだろう。実際、すぐに中央政府が鎮圧に乗り出さないのは、カオス軍との決戦が迫っているとはいえ、宗治の力と夏妃の力を十分に知って静観しているからだ。


(先輩は、私の力だけを欲しているのだろうか?それとも、私自信を愛してくれているから欲しいのだろうか?)


夏妃は不安であった。自分の優柔不断で3魔王の正妃などという対場にいるが、本来はこの3魔王のうちだれか一人だけを自分は選ぶべきだったのだ。今は自分の意志に反して一人の元にいるという皮肉な結果になっている。


「魔王猊下が戦場から帰還なされました」


護衛の兵士が夏妃にそう告げた。軟禁状態とはいえ、形式上彼の妻である夏妃とカルマはこの強大な魔王を出迎えた。


宗治は最後まで抵抗する都市の鎮圧を終えて、帰還した。忠実な部下であるカテル、蝶子を従えてだが、カルマを連れて行かなかったのは彼女がまだ今の状況に納得してないと踏んだのと、抵抗する都市を見せしめとして徹底的に粛清するという暴虐の魔王の名にふさわしい行為を彼女が従わないと考えたからだ。当然、愛する正妃も同様だ。


「余は帰った」


「おかえりなさいませ、陛下」


カルマは戦闘用ドレスの裾をつまんで、軽く挨拶をした。夏妃は通常の清楚なドレスで同様の挨拶をする。だが、目は決心の炎を宿していた。


「夏妃、何か余に言いたいようだな」


「はい。せん…いえ、魔王陛下」


夏妃はつかつかと宗治に近寄る。一柳宗治は魔王としてこの魔界に来て以来、元人間とは思えない威圧感で周りを寄せ付けず、その命令にひれ伏して従う者が多かったが、夏妃だけは人間界と変わらぬ態度であった。


「この度の勝利おめでとういうべきでしょうが、私は確認せねばなりません。抵抗するメンフィスの町の降伏を認めず、老若男女区別なく殺したと聞きました。それは本当ですか!」


「・・・・・。」


「沈黙ですか!私の問いに答えられないことを本当になさったのですか!」


宗治は愛する女が怒っていることに動揺の色も見せず、冷たく、


「余に逆らう者は、こうなるという見せしめだ。余は後悔していない」


「そうです、御台様。メンフィスを見せしめにすることで、他の都市は抵抗を止めてみな我らに従いました。もし、抵抗されれば、我が方の被害も多くでました」


そう宗治の傍らの藤野蝶子が口をはさむ。大好きな宗治と何日も一緒に過ごせて満足という表情で、夏妃に余裕の目を向ける。だが、すぐさま宗治に一喝される。


「控えよ、蝶子。今は余が余の正妃と話しているのだ。側室は口をはさむことは許さぬ」


宗治は夏妃の手を取った。


「余はお前に弁解はしない。なるほど、余は暴虐の魔王の名の通り、一つの町を滅ぼした。それを悔いてもいない。なぜなら、滅ぼす理由があったからだ。余は魔王としての責務を果たしたのみである。お前は余のことを嫌いになったかもしれないが、余はお前を愛している。お前の能力など関係なくだ。だから、3魔王との戦いにはお前は絶対に使わない。余はお前を戦士としてではなく、妻として見ているからだ。だが、カオスは別だ。奴らとの戦いでは、お前の力を借りたい。そして、お前は力を使うはずである」


 確かに魔界の民のことを思えば、自分の力はカオスに対して使うわないわけにはいかないだろう。カオスが宗治の支配するエリアに侵入すれば、夏妃も出陣してその反則的な力を開放せざるを得ない。だが、幼馴染の隆介や元馬と宗治が戦った場合、それこそ魔界を2分する内乱になろう。文字通り、勝者が夏妃をモノにできるのではあるが。


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