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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
激闘モード
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エトランジェのフィアンセ その4

「ふん、魔界女の慎みのなさにはいつ見ても反吐がでる。それに加えて人間出身の側室や正妃などと下賤な輩が王宮の中心とは」


「あいかわらずだなアル。お前のその選民思想の方が不愉快アル」


優雅にダンスを踊りながら、ランジェの耳元でささやくジークフリート。


「まあいい。この戦いでこの僕が魔界を決定的に救って救国の英雄になれば、褒美としてお前を要求する。魔界の奴ら、今の状況なら承知せざるをえないからな」


暴虐の魔王の謀反で分裂するかもしれない今の魔界の状況からすればありえない話ではない。いつもなら反射的にジークフリートに対してビクついてしまうランジェであったが、今は強い意志でジークフリートをにらみつける。その変貌に驚いたジークフリートは、ランジェに、


「お前、まさか、奴に…」


「側室なら当然アル。もうランジェは魔王様に身も心も捧げたアル」


「そ…そんな…バカな…。暴虐や天智や激熱の魔王ならともかく、何の力もないただの人間のあのヘタレの男に抱かれたというのか…」


「抱かれたどころじゃないアル。魔王様は毎晩、ランジェの体をむさぼって、夜も寝られないアル。ヘタレどころじゃないアル。まさに夜の魔王さまアル」


ジークフリートの驚いた顔がいい気味だと感じたランジェの奴、大げさにうそ八百を並べ立てた。


「魔王様は夜の方は百戦錬磨の勇者様で、ランジェのみならず、リィやファナらも加えても退却を知らぬ絶倫ぶりアル。それで名付けられた二つ名が、種馬の魔王アル」


「・・・・・・・」


ジークフリートは言葉もない。これチャンスだと感じたランジェは、さらにとどめを刺す。


「ジークフリート卿、腰にあまり触らないで欲しいアル。魔王様のおかげでランジェの体は感じやすくなってしまったアル。胸も少し大きくなったアルし…」


そう言って、目を伏せて手のひらを胸にやった。実のところ、ランジェの板胸は何一つ成長してなかったのだが、貧乳好きの処女好きのこの大司教には大ダメージであった。


「ゆ…ゆるせん…奴だけは許せん…」


ジークフリートは、怒り狂って足音高く俺の元へやってきた。


「種馬の…いや、イレギュラーの魔王殿、聞きたいことがあるがよいか」


激怒しつつも、一応外交辞令もあって、言葉は少し落ち着いた表現を使っていたが、目は「完全に殺してやる」と言っていた。ちょっとビビったが、ランジェに守ってやると言ったし、今は周りの目もある。ここで態度だけは魔王じゃないとかっこ悪いので毅然と、


「何だ、大司教。言ってみよ!」


と偉そうに答えた。


「魔王殿はラン…エトランジェと夜を共にしたとか…」


(こいつめ、ランジェから聞いて怒ったな。おもしろい!)


「ああ、当然だ。エトランジェは俺の第2側室だからな。気が向けば2晩でも3晩でも抱き放題。いや、あの体でも感度が高くてな。ヒーヒー泣いてカワイイんだよなこれが!」


ランジェが散々、うそ八百を並べてたことを知らない俺は、ジークフリート大司教を凹ませようと火に油をそそぐことを言ってしまった。


想像していたことを肯定されて、ブルブル震えたジークフリートは、腰の剣に手をかけた。彼の持つ魔獣殺しの剣「グラム」を抜き放つ。周りが騒然となったが、ジークフリートは部屋中に響く声で、


「心配ご無用!魔王殿と剣の舞をしようというだけだ。魔王様、今宵の余興にわたくし目の相手をしてくださいませ!」


そう言うと一応舞いながらも俺の目の前に剣を突き付ける。さすがに同盟関係にある王を刺すわけにはいかないので、剣を突き付けて脅かすつもりなのだろう。だが、振り回した剣が俺の頬をかすり、血がにじみ出た。


「おっと失礼。酔っておりますので、手元がくるうかもしれません」


といって、俺の立っているところへ剣をぶっさす。慌てて跳びのいて、転ぶ俺。


(こいつ、マジで俺を刺して事故でしたというつもりだ)


背中に冷たいものが走る。魔界の護衛兵も相手が相手だけに割って入ることもできず、周りは固まっている。だが、そこへ槍を携えた女が割って入った。ファナだ。


「ジークフリート卿、魔界にも槍の舞があっての。今ここで余興に披露させていただく。天界の剣舞とどちらが勇壮か比べていただこう」


見ればリィもフィンマークルを召還していたが、ファナに一歩出遅れたらしい。今は成り行きを見守っている。


「第4側室殿か。おもしろい、剣と槍の舞、とくとご覧あれ!」


ジークフリートは、ファナが割って入って、少し冷静さを取り戻していた。いくらなんでも自分が魔王を殺したら大変な外交問題になる。それなら、この割って入った側室の女をいたぶって魔王に恥をかかせた方がよい。ドレスを切り刻んでこの場で丸裸にしてやれば、魔王も大恥だろう。

だが、1分もしないうちにこの側室の女の技にジークフリートの方が押され出した。元々、剣と槍とではハンディがあるものの、たかが女の槍術と侮ったのが間違いであった。ファナの突き出される攻撃にジークフリートは防御に追われる。魔剣グラムのプレッシャーをはじく魔槍ロジェアール。


(くそ、こうなれば必殺技で…)


これを使えば、辱めるどころか命を奪いかねないが、このままでは自分が恥をかく。


ジークフリートは精神を集中する。カオスの上将軍を一撃で沈める技だ。


「そこまでアル!」


手を広げて自分の前に立ちはだかる少女が目に入る。


「ジークフリート卿。余興はそこまでアル」


(潮時だろう…僕としたことが…)


ジークフリートは内心ほっとしたものの、ここは言い繕わないといけないと思ったのか、


「ファナ殿と言ったか。戦場で活躍、期待しよう。ランジェ、僕はあきらめないからな」


最後の言葉はランジェだけに聞こえるようそっと言って、退出していった。


「ふい~助かった。ファナのおかげで命拾いしたぞ」


そう独り言を言った俺にいつのまにか正妃の立松寺が、


「土緒くん。あなた、まさかと思うけれど、ランジェにも手を出したの?」


「え?」


俺はその場で固まる。ジークフリートの剣で脅かされるより怖いお言葉だ。


「いや、手を出したというか、ちょっとランジェを励ましただけ…ついでに彼女の力を開放しただけで…」


「なるほど。ジークフリート卿が怒るわけです。フィアンセが奪われれば、誰だって怒り狂います」


「だけど、立松寺、奴はフィアンセと言ったってランジェにひどいことする奴だぜ」


「その辺のところは、エトランジェさんからもよく聞いています。あなたが言い寄ったことも含めて、よ~く知ってます!」


(ランジェの奴め!)


俺は天を仰いだ。たぶん、ランジェの奴、すべて立松寺にしゃべっている。


「土緒君、ジークフリート大司教は確かに性格に問題があるのかもしれませんが、もし、仮に私が誰かの妻にされたら、土緒くんはどう思います?」


「そいつを殺す!立松寺は俺の女だ!」


「はいはい。その言葉で少しは許してあげます。ジークフリート大司教の立場になれば、あなたは憎い恋敵です。そこのところをよく理解しないとしっぺ返しに合います」


確かに立松寺の言うことはもっともだ。ランジェは返せないけれど、ふざけて挑発することはやはりやり過ぎではあった。これから始まるカオスとの戦いで彼の軍の働きがなかったら、この前の戦いの最中のように自分が死ぬ目にあうかもしれなし、代わりに誰かが傷つくかもしれない。


「いずれにしても、ジークフリート大司教の戦いに対するモチベーションが下がらないことを祈るしかありません」


立松寺はそう天界から来た大司教が去った扉を見つめた。確かに素直に魔界のために働くとは思えない。


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