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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
激闘モード
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エトランジェのフィアンセ その1

 俺は例のハーレム小隊のメンバーにお茶をついでもらいながら、部屋でくつろいでいた。

なにやら、宗治先輩が裏切ったとか、なんとかでデビルパレス中が大騒ぎだったたし、カオスの侵攻が近いとかで、正妻の立松寺も側室のリィ、ランジェ、ファナも忙しく、ここ2,3日姿を見ていない。カミラちゃんは先日の戦闘で負傷して屋敷にて養生中で、みくにちゃんもその看病でいない。


「ロレックスちゃん、次の出陣はいつって聞いてる?」


「いえ、わたくしなどが聞いているわけなどありません」


(そうだけど、俺も魔王なのに誰も何も教えてくれない。全部、隆介と元馬で決めやがって…。宗治先輩が裏切った気持ちも分からぬはないが)


自分は宗治のような圧倒的な力がない。戦場に赴くのは自分の配下の側室が強いからで、敵が弱ければ自分が出陣することはない。だが、いざと言う時は、やはり前線で戦う側室たちのためにも戦場に出なければならないそうだ。(ロレックス侍従長談)


「侍従長、天下からの援軍が到着したようです。天智、激熱の両魔王様から参集の要請がありました」


そう次席侍女のオメガ嬢が伝えに来た。天界からの援軍…今の魔界にとって喉から手が出るほど欲しいものではあったが、俺にとってはありがた迷惑なことになる。


魔王、正室はじめ、側室や元老院の重鎮らがそろった広間に天界から援軍を率いてきた遠征軍の司令官が進み出た。


「天界軍、第11遠征軍司令官、対カオス狩り審問官のジークフリート・クレルモン大司教です。魔王陛下及び魔界の指導者殿、お見知りおきを…」


立派な肩書だが、その男は若い…というより、ほぼガキだ。俺より確実に年下だが、妙にプライドが高そうなボンボンである。顔は悔しいがかなりイケメンで、人間界なら某芸能事務所からデビューできそうなくらいだ。その子憎たらしい少年は俺と目を合わせると急に険しい目になり、まさに殺さんばかりの殺意に満ちた目つきになった。


(おい、おい。俺はお前に何かしたのか?)


そう思ったら、そいつはズカズカと横に並ぶ側室たちの列に近づいてきた。あろうことか、第2側室エトランジェ・キリン・マニシッサの前に立つ。


「ランジェ、元気にしてたかい。苦労はしてないかい?」


そう話してランジェの右手を取ってキスをする。ランジェの奴、なすがままだ。


「お、おまえこそ…元気だったアルか…」


「ぼくは元気ですよ。ランジェ…あなたが、あんな奴の…」


そうジークの奴が言いかけたところへ俺は玉座から降りて駆けつけた。


「あんな奴で悪かったな」


「これはこれは、ヘタ…おっと、イレギュラーの魔王陛下」


「ランジェは俺のもんだ。許可なく話しかけるな」


俺は嫉妬深い方ではないと思っていたのに、ランジェにちょっかいを出されると何だか面白くない。こうなると立松寺の心境がよく理解できる。


「魔王陛下、聞いてないのですか。わたくしとランジェの関係を…」


「関係って?」


ランジェが顔を赤らめて言う。


「元フィアンセ…アル」


「フィアンセって?結婚を約束した?」


コクリとうなずくランジェ。


「本日の我が軍の歓迎パーティの席で決着をつけましょうか?魔王陛下殿」


ジークフリート大司教(以後、生意気小僧らしくジークと呼ぶ)が白々しく俺に胸に手をあて頭を下げる。その姿はランジェは渡さない…という雰囲気ありありであった。


(ちくしょう!)


俺は心の中で悪態をつくが、いつの間にかリィがそばに来て、


「夏、ジークフリート大司教は今の魔界にとってなくてはならない戦力だ。くれぐれも怒らせてはいけないぞ…」


と小声で言った。彼の連れてきた5万の天界軍はまもなく始まるであろう、カオスとの決戦に必要な戦力に違いなかった。だが、あのランジェとはいえ、自分のものに手を出されて黙っていては男の恥だ。いくら非力と言えど男の意地ってものがある。


「あいつめ、何たくらんでいるか知らないが、俺がギトギトにやっつけてやる!」


と息巻いた。だが、ロレックス侍従長が、


「魔王陛下、下手なことを言わない方がよいと思います。ジークフリート閣下は、天界でも有数の戦績を誇る英雄です。カオスの将軍を神業の剣技で何人も倒しています」


と小声で言うし、心配して俺に近寄ってきた正妃の立松寺も、


「土緒君、今は自分の命を大切にした方がいいわよ。女にうつつを抜かす前に…」


とグイグイとヒールの踵で俺の足を踏みつける。たぶん、ランジェを俺のもんだと叫んだことを怒っているのだろう。あとで二人きりになった時のお仕置きが怖い。


 二人の女子に忠告された俺はあらためてランジェを見る。いつもお人形さんみたいな容姿のランジェだが、いつもよりも顔が青ざめている。小刻みに震えてもいる。いつも元気で傍若無人のランジェがおびえた小動物みたいだ。(これはこれで可愛いが…)


「ランジェ、どうした?」


と話しかけても返事もしない。目に涙を浮かべて突然、広間から自分の部屋へ駆けて行ってしまった。


「あれが、例のランジェのフィアンセか…」


リィがランジェの後姿を見てつぶやいた。そういえば、このお姉さん、ランジェと同じ大学に通ったというご学友じゃなかったか?なにやら、あの生意気ジークとランジェの関係を知っていそうだ。


「リィ、なにやら知っていそうな話しぶりだな」


「知ってはいなくないが、これを話すとちょっとな」


「ランジェに秘密とか言われているのか?」


「いや、そうじゃないが。話すとお前の次の行動が読めるだけにな」


(えっ?)


俺はリィの思わせぶりな話し方にドキッとした。


(もしかしたら、ランジェの奴、好きなフィアンセがいるのに天界のために俺に身をささげたなんて…ことないよな?)


そんなことなら、俺は二人の恋路を邪魔する悪徳非道な魔王だ。


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