魔王の反乱 その3 激闘モード
新堂ひかるが軍団の親衛隊に抱えられて、出ていくのを黙って見守ることしかできなかった夏妃は、新たに従うアビスの幹部たちの中に見知った顔を見た。
(あれは…ツエッペリ伯…)
そう人間界で抹殺し損ねた過激派の幹部、血の旅団を率いるキモイケメンである。3魔王のトドメの攻撃を夏妃が懇願して命を助けたのだ。あの大けが…というより、魂が千切れてわずかに欠片しか残っていなかったのだが、魔界に来て回復したのであろう。
「そこの騎士、待ってください」
退席しようとする将官を呼び止める夏妃。ドミトル・ラ・ツエッペリは端正な顔を夏妃に向けた。
「御台様、お久しぶりです」
「ドミトル伯爵、体はもうよいのですか」
「はっ…。復活までにずいぶんかかりましたが、体が動くまでにはなりました」
「そうですか」
ドミトルは声を潜めて夏妃にささやいた。
「あなたに助けられた恩は忘れません。ただ、今の私はまだ力が戻っていません。いずれ、恩返しをするつもりです。今はご自重くださいませ」
そういうと、他の者と同じように退室していく。暴虐の魔王はその様子を見ていたが何も言わなかった。
暴虐の魔王の反乱のニュースは瞬く間に魔界に広がった。ハン・アスモデウスを筆頭とする元老院も宗治の意図がつかめず、混乱は増すばかりであった。
「宗治先輩がなぜ?」
元馬は執務室の壁を2,3度なぐる。壁がみしみし音を立ててヒビが生える。
「先輩の意図はつかみかねるが…問題はカオスが本格的な侵攻を始めているということだ」
隆介が第13側室の三ツ矢加奈子からの情報で、現在の戦況を整理していた。遭遇戦が思わぬ大会戦になり、50万もの大軍を失ったカオスは、今度は大将軍を中心とした主力軍を投入してきたらしい。陣容が整う前にこちらから仕掛けていきたいと思った矢先のこのニュースだ。カオスもここが決戦と考えている。かなりの戦力が集められるはずだ。こちらも結集しなくてはいけないのに、宗治の軍団が抜けるだけでなく、敵対するとなるとそちらの備えも必要になる。
「隆介くん…。兵力が足りないわ。最低でもカオスにはあと5万人は振り向けないと…」
後方支援担当でもあり、加奈子と共に隆介のブレーンでもある中村杏子は、地図上の配置を見ながらそう進言する。5万人はちょうど宗治率いる軍団の総数だ。それがそっくりいなくなったうえに、首都を守る人員も残さねばならない。それに…
隆介と元馬の脳裏には夏妃のことでいっぱいであった。
(宗治先輩の奴、夏妃をモノにしたいだけで反乱を起こすなんて!)
結果的に宗治と行動を共にしていた夏妃が奪われた格好になる。そして夏妃そのものが、戦争では決定的なキーカードになるのにそれまで失った格好だ。できれば、すぐさま、カルタゴへ侵攻して、宗治を倒し、夏妃を取り戻したい2人とも思っていたが、今は目の前のカオスを何とかしないといけない。そこへ、衛兵が駆けこんで来た。
「両魔王様…天界より援軍が到着しました」