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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
激闘モード
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ラ・パルマス会戦 その5 激闘モード

(ねえ、あの馬鹿でかいおじさん、どうやって倒せばいいの?)


私は右肩に乗っているタキシードウサギ、ライオネル3世に聞く。ライオネル3世は、両手を広げて「さあ?」と首をひねった。正直なところ、百戦錬磨のカオスの上将軍に序列16位の人間出身のか弱い女子が勝てるわけがない。だが、このままでは真っ二つだ。美国ちゃんの親衛隊の大半はカオス軍に阻まれている。頼りの親衛隊達長オズボーンのおっさんは先ほど吹き飛ばされて倒れている。


「美国、倒すことは不可能だよ。君にできることは時間稼ぎだけ。少し粘ればカミラちゃんが来てくれるさ。他の側室の女の子もたちもね」


(時間かせぎって、どうするの?)


「君のウェポンを使うしかないなあ…」


ライオネル3世が言う私のウェポンというのは、「奇跡のウサギが所有するべき憂鬱のフルート」と呼ばれる魔法の笛。通称「ウサギの笛」だ。フルートという名前なのに、形は全然、フルートではない。格好からすればフルートの方が可憐な美少女の持ち物のふさわしいのだが、なぜか銀色に輝く小さなホイッスルである。それが鎖ならぬ、細い蔦で編まれた紐で首にかかっている。


「このお~」


私はその笛を口にくわえると肺活量限界の勢いで吹いた。


「ピーヒョロフィ…」


勢いの割にはなさけない音色が響き渡る…と同時に空中から白いウサギの精霊が湧き出た。次から次へと湧き出た。それこそあたりが真っ白になるぐらい湧き出た。


「あーあ。やっぱり、スケープゴートラビットか。まあ、確率的にはそうなるだろうねえ」


ライオネル3世がため息交じりにつぶやく。


「スケープゴートラビットって?」


私は数えきれないほど出てきた白いウサギたちを見ながら、そうライオネル3世にたずねる。


「敵にやられて時間をかせぐウサギさ。まあ、数はハンパないからいくらか時間は稼げるけれど、笛を吹かないとウサギは生み出されないよ」


私は慌てて笛を吹く。確かに吹いている間だけ、ウサギは生み出される。


出てくる大量のウサギの精霊に一瞬とまどったカトバブレスだが、戦斧で薙ぎ払うとたちまち数十体のウサギが塵と化したのを見て、ただの時間稼ぎの魔法だと見破った。


「こんなもの、叩き潰してくれるわ!」


ぶんぶん振り回す戦斧にウサギの精霊は消えるのみ。だが、やられても次々登場して、美国ちゃんと土緒夏の間の空間を埋めてカトバブレスを近づけさせない。業を煮やしたカオスの上将軍は、戦斧に炎の魔法をかけて攻撃力を数倍に高めて、猛攻撃をする。どんどん消されるウサギ。しかも美国ちゃんの息も続かず、ついに笛の音が止まった。同時にウサギ軍団も戦斧で薙ぎ払われてすべて消滅した。


「時間をかけさせやがって。序列16位程度が手間をかけさせるんじゃない。我が戦斧で血しぶきをあげて華麗に散るがよい!」


「いやですよ~だ!」


アカンベーをする私。


「美国ちゃん!危ない!」


夏先輩の声が響く。私の頭上に巨大な戦斧が振り落される瞬間であった。思わず目をつむる私。


(ああ…ここで私は散っていく…夏先輩の前で。ごめんなさい、先輩。美国は先輩を守れませんでした)


と心の中で回想モードになる私。


だが、聞いたことのある甲高い声で目を開ける。その瞬間、誰かに抱きつかれて地面をごろごろと転げまわった。


「カ…カミラちゃん」


私を押し倒して戦斧から守ってくれたのは親友のカミラちゃんだった。人間界で出会った吸血鬼っ娘で、一緒にこの魔界にやってきた親友だ。


「みくに、危ないよ。死んじゃうかと思ったよ」


立ち上がって、カオスの上将軍にするどい視線を向けるカミラちゃん。手には細身の魔剣ヘルゲが握られている。


「カミラちゃん、ありがとう」


見れば巨大戦斧は、さっきまで私が立っていたところに突き刺さっている。


「ちっ…第14側室の小娘か。時間をかけ過ぎたか。だが、14位程度では私は倒せないぞ」


「いえ、14位でも私は魔王様に愛をいただいた身。側室の力は寵愛で決まる!」


(おいおい、寵愛って、カミラちゃんは学校で俺を襲った時の1回だけじゃないか!)


という俺の心の突っ込みを察することなく、カミラちゃんはカオスの上将軍へ剣技を繰り出す。細身の剣ヘルゲは先端をしならせて、カトバブレスに襲い掛かる。カミラちゃんの剣技はフェンシングのように突きで構成されるが、そのスピードはそれこそ目にも止まらずでカトバブレスの体に幾度もヒットする。だが、カトバブレスの着用している頑丈な鎧はその剣の切っ先をなんなく跳ね返した。


「貴様の剣が何回我が体をとられようと、我が守りは破れない。だが、我が戦斧の攻撃が一度もでもヒットすれば、お前は死ぬ。対戦するには力の差がありすぎるわ」


カトバブレスのセリフを聞くまでもなく、見ていてやばいことは俺にも理解できた。これでは、刀で戦車に立ち向かうサムライではないか。あの巨大な戦斧に薙ぎ払われれば、小柄なカミラちゃんなどあっという間に真っ二つである。


戦斧の薙ぎ払い2連撃を1撃目はしゃがんで、2撃目はお腹を引っ込ませてかわしたカミラちゃん(リィやファナだったら豊かな胸がじゃまで当たっていたが、カミラちゃんの板胸はこの攻撃をかわすのに十分なクオリィティがあった)


(この上将軍、確かに今の私では荷が重いわ…。使うしかないか…。まだ、とっときたかったけれど…また、魔王様を襲って抱いていただければ、別のスキルは獲得できるわ)


カミラは目を閉じた。神経を集中して、剣に念をこめる。魔剣ヘルゲの能力を最大に引き出す。魔剣ヘルゲは使うものの攻撃力を高め、敵対する者に恐怖を与える魔剣だが、使用者の生気を吸い取り、それをエネルギーに変えて攻撃する特殊能力があった。すでに不死の魔物であるカミラには吸い取らせる生気はなかったが、以前、夏から吸い取った精気(Hした時にいただいた)を使う。文字通り、魔王の寵愛で魔剣の特殊能力を発揮させるのだ。


真っ赤に光る魔剣ヘルゲを突き立てたカミラちゃんの目も赤く光る。


「魔剣ヘルゲの壱の剣!短冊斬り!」


ヘルゲの切っ先が真横一文字に入り、次に上下に数十回振られる。まさに大根やニンジンを切り刻む短冊斬りのごとく。


技を出し終わったカミラちゃんがフォロースルーのシルエットを華麗に決めると同時にカトバブレスの強大な鎧ががちゃがちゃと下に落ちた。短冊斬りの威力だ。カトバブレスはゆっくり崩れるように肩ひざをついた。


(カミラちゃんの勝ちだ!)


俺がそう思った時、カトバブレスの持っていた戦斧が消えていることに気付いた。


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