ラ・パルマス会戦 その3 激闘モード
元馬は隆介からの伝令を受け取った。自分の方はアレクサンドラと満天の活躍で勝利しつつあるが、確かに残り10万のカオス軍は頑強で、強引にいけばこちらの被害もバカにならない。さらに敵は上将軍と思われ、アレクサンドラや満天がケガでもしたら…と思うと、自ら突撃して敵指揮官を葬り去ろうと思っていた矢先であった。
「なに?ス…スバルに出陣させろ…と」
元馬は自陣の隣に控えている自分の側室、宮川スバルの陣を見た。4500の魔界騎兵を率いる機動部隊である。そして彼女のウェポンは「ドラゴンランス」単騎としての戦闘能力は上位の側室には遠く及ばないが、ドラゴンランスの特殊能力は、率いる部隊を無敵の光の槍に変え、立ちふさがるものはすべて吹き飛ばす。
正面に立てば例え、上将軍であっても討ち果たすことができる。突撃すると進行方向は変えられず、しかも突撃時間は10分。それ以上だと特殊効果が解けて、逆に敵軍の中に孤立することになる。使い時が難しいが、ここぞというところで使えば、効果は絶大である。
「スバル隊に連絡、敵の左翼から突入して敵右翼後方へ離脱せよ…あと、彼女に…」
元馬は小さなメモを伝令兵に渡す。
スバルは黒い大きな魔界の馬に乗っている。人間界では一度も馬には乗ったことがないのになぜ、乗れてしまうのかはやはり、自分が魔王の愛人という妄想でしかありえない立場になっていることを自覚せざるをえなかった。
そして、目の前に広がる戦いの場も普通の女子高生なら恐ろしさに腰が抜けて立てなくなるはずなのに、凛として眺めている自分自身が一番ありえないのかもしれなかった。4500の屈強な魔界騎兵は、すべて自分の命令で動く僕であり、彼らの生殺与奪剣を自分が握っていると思うとその責任の大きさに身震いするが、それよりもカオス軍を倒したいという欲求の方が大きいのだった。
「魔王様より伝令です!」
「元馬くんから…」
スバルは元馬からの命令を聞いた。そして彼からの小さなメモを受け取る。そこには、
(スバル…ごめん…というか、なんというか…頼む!)
ぎゅっとメモを握り、その手を胸にそっと置いた。
(まったく、素直じゃないんだから)
自分は彼の愛人の一人に過ぎない。この魔界に来て嫌と言うほどその立場が分かった。元馬の妹の満天はともかく、正妻の夏妃に序列10位のアレクサンドラは完全に自分より上位である。愛される順番も序列通りである。アレクサンドラや夏妃には負けるものか!とスバルは思った。それに小うるさい小姑の満天にも自分がいかに兄の役に立つか思い知らせておこうと思った。
「全軍、突撃準備。槍を構えて!」
自らも召還したウェポン、「ドラゴンランス」を構える。
「目標、敵中央の指揮官。敵を斜めに切り裂きます。全軍、突入します!」
スバル隊の突入で戦いの結果はほぼ決まった。光の矢と化したスバルの部隊に切り裂かれ、立ちはだかった敵の上将軍はドラゴンランスに貫かれて倒された。崩壊したカオス10万にリィ、ファナ、エトランジェ、アレクサンドラ、満天、メグル、エセルの各隊が襲い掛かる。
さらに増援に来たカオス20万を予備として待機していた元馬、隆介、立松寺の魔王、正妃軍団が各個撃破していく。特に立松寺華子の活躍は目覚ましく、彼女が繰り出す、札の舞からの攻撃符の攻撃は、敵の指揮官を瞬時に葬りさり、討ち取った敵指揮官は上将軍一人を含む4人とこの戦いで一番の戦果を挙げた。
「勝ったな…」
そう隆介は手にした二丁の魔銃を収めた。彼自身、敵指揮官を一人、撃ち抜き、増援の各個撃破に花を添えたが、それ以上は自ら戦う気がしなかった。カオス憎しのエセルには徹底的にカオス兵を殲滅するに任せたが、メグルには深追いするなと厳命して、彼女を気遣うこともした。
「それにしても立松寺の奴、あそこまですごいとは…」
「夏君の妻としての威厳を見せたかったのでは?」
クスッと笑って加奈子はそう言った。浮気者と罵ってすねても、やはり彼女は土緒夏のことが心底好きなのだろう。リィやファナやエトランジェ、カミラ…それに美国ちゃんといった強力な愛人に自分の存在を見せつける気持ちは分からなくはない。
(だが…そのとばっちりを受けるカオス兵は気の毒だ…)
そう橘隆介が思った時、スカルの杖で戦況を確認していた加奈子の叫び声で我に返った。
「後方にカオス軍出現。数、およそ4千!」