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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
胎動モード
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2番目の女 そして激闘モードへ

ついに覚醒モードに続く、第2弾胎動モードの終結です。

16人そろっちゃいました!?

 カルマさんとの騒動を終えて、家に帰宅した俺は門の壁にもたれかかって誰かを待っている女の子を発見した。小柄な体は俺のよく知っている娘だ。小柄だから、リィでもファナでもない…無論、翼もないからカミラでもない。そう覚醒モードでは活躍したが、この胎動モードでは完全に出番のなかった天界の娘、第27魔王監視小隊隊長、エトランジェ・キリン・マニシッサ、通称ランジェであった。

初めて会った時から生意気な小娘であったが、今日は何だか思いつめた表情で正直、どきっとしてしまった。


(俺はロリコンじゃない!どちらかと言えば、リィやファナのような大人のお姉さんが好みだ。だが、ランジェの奴、今日は妙に色っぽいじゃないか…)


たぶん、俺のことを待っていたであろうランジェは俺の顔を見ると急に顔を赤らめ、くるっと背を向けた。


「おう、ランジェじゃないか。久しぶりだな…」


「ひ…久しぶりだ。な…なつ…いや、魔王殿アル」


いつもの語尾に「アル」がつく懐かしいランジェの口調だ。


「どうしたんだ。俺に会いに来たのか?」


冗談で俺はそう聞いてみた。こうボケれば、ツッコミ役のランジェは必ず、俺をドついてくるはずだ。これまでは少なくともそういうシチュエーションであった。だが、今日は違っていた。


「バ…バカ!アル。そんなんじゃないアル」


「じゃあ、なんでここにいるんだ?」


「秋から聞いたアル。お前の両親は今日は出張で不在。秋も塾の夏合宿でいないから、お前の夕食を作る人間がいないアル」


(そういえば、そうだった。ついでに夏妃の奴は、今日はお妃教育の日で例の寺でリィの一緒だし、ファナは今朝から用があるからと姿を見せていない。晩飯なんかは別にコンビニで何か買って食べればよいのだが)


「それで、お前が俺に飯を作ってくれるのか?」


(ランジェのことだ。何だか裏があるにちがいない…)


俺は完璧にそう思った。どうせなら立松寺に家に来てもらって夕食を作ってもらえばよかったと頭に過ぎったが、ランジェの反応は俺の予想を百倍も裏切った。


「お…おまえ…中華が好きと聞いたアル。私は中華料理、得意アル」


「ええええっ…」


語尾に「アル」が付くからベタな中国人キャラ設定で得意料理は中華料理…ベタ過ぎるがランジェの容姿は金髪巻き毛で青い瞳。完全なフランス人形である。そのフランス人形がフリフリのエプロンをつけ、体に合わない大きな中華鍋を振ってどんどんと料理の皿を並べていく。四川風鳥の空揚げに始まり、酢豚に回鍋肉、海鮮中華スープにチャーハン、春雨サラダに杏仁豆腐まで並べた。おいしそうに湯気が立つ食卓に呆然と座る俺の隣にちょこんと座るランジェ。小皿に料理を盛り付けると、慣れない箸を使って俺の口元に持ってくる。


(ま…まさか…これが伝説のあ~ん…か…いや、俺は女体化していた時に立松寺に手作り弁当でやってもらったことがあるが…)


男に戻ってからは一度もない。男の時の初「あ~ん」が立松寺でも、リィでもファナでもなく、ランジェというのが解せないが、ランジェは誰が見ても美少女だ。そんな美少女の「あ~ん」を拒否できる男はこの世にはいまい。


自然と開けた口にちょっと辛いカラアゲが入り、一口かむとジューシーな肉汁が口いっぱいに広がる。食べたら超まずいというオチもなく、俺は完全にとまどった。ランジェの奴、こんなに家庭的な女の子だったとは…。そんなことを思いつつ、素人(素人どころか人間ですらないが)が作ったとは思えない驚異的なうまさの中華料理を時折、ランジェに口に運んでもらいながら、俺は黙々と料理を平らげた。ランジェは食事が始まってからは、急に無口になり、自分に対する給仕と自分の食事の身に徹している。


「なあ、ランジェ…もしかしたら、何か話したいことがあるんじゃないか?」


俺は思い切って聞いてみた。思いつめた顔で自分を待っていた時のランジェの表情から俺は何となく、彼女が自分に何か相談があるのではないかと直感していたのである。それは、親友?のリィにも聞かれたくないことであろうことは、彼女がわざわざ関係者が留守になるこの日を狙って来たことから分かる。


「魔王よ、カオスはどこから生まれ、何を目的に魔界と天界を侵略するのか知っているアルか?」


「ハンのじいさんが言うには、奴ら破壊の権化で目的も何もないということだったが」


「それは今までのことアル」


「どういうことだ?ランジェ」


「奴らには王というものがいないアル。正確に言えば、カオスと言う精神体が存在するのみで体を持たない王ある」


「・・・・・」


(どういうことだ?)


「カオスがなぜ大軍で来るかと言えば、奴らの源は死者だからアル。人間界で死んだ者は選抜され、天界と魔界と人間界に生まれ変わることは聞いたアルか」


「ああ」


俺はゴクリと唾をのみ込んだ。何だか、今日のランジェは真剣で彼女の話す言葉を聞くことが恐ろしいと感じ始めていた。


「そのサイクルが崩れ、死んだ者はみなカオスに変わるアル。魂を浄化しなければみなカオスになるアル」


「それじゃあ、戦いでこちらが死んでも、カオスの兵士をやっつけてもすべてカオスの戦力になるってことか?」


「だから、今まで戦で勝っても奴らを殲滅できなかったアル。大きな勝利を挙げてもそれによってカオスは増強され、反撃してくるアル。だが、今回、夏妃の覚醒で状況が変わったアル」


 夏妃の持つ能力は絶対回復である。これにより、魔界、天界軍とも死者は皆無となる。それは死者の魂の増産の流れを止めるためにカオスの消滅を意味する。


「じゃあ、夏妃の登場で戦いが終わるということジャンか」


「だから、そう簡単な話ではないアル。先ほど言ったようにカオスの王はいないアル。いや、いなかったアル」


ランジェは過去形で語った。


「今回、魔王が4人出現したアル。これはこれまでの歴史をたどってもあり得ない状況アル。だが、魔界にとって有利な夏妃の出現というチャンスに対してバランスを取るようにカオスにもそういった有利な出来事が起きたとは思えないかアル」


俺はランジェのたくましい想像力に思わず噴き出した。


「おいおい、それはどういうことだ?俺がカオスの王だとも言うのか」


「うぬぼれるな!たわけ!お前のようなヘタレがカオスの王のわけないアル」


むっとする俺。ということは、ランジェは残りの3名、宗治先輩、隆介、元馬を疑っているということだ。ランジェのことだから、たぶん、一番候補は宗治先輩だろうが。


「で、それをヘタレの俺に打ち明けてお前は何がしたいのだ」


そうだ。こんな変な話を俺に言ったところでなんの解決にもならない。どうせ、俺は魔王と言っても側室候補の女の子を覚醒するだけの「種馬の魔王」である…と自嘲気味につぶやいたが、ランジェの方はそんな俺のつぶやきを無視して、俺の目を真剣に見つめている。


「そ…それは…」


俺の目を見てランジェは慌てて視線を下に落とす。顔が真っ赤である。こんな可愛い奴が隊長の第27魔王監視小隊ってどんな部隊だ?という疑問はさておいて、ランジェの表情から俺はすでに彼女が何してきたのかおおよそ理解していた。夜遅くに家族がいないところを見計らってやってきたのだ。今なら正妻の立松寺も側室のリィもファナもいない。


「カオスを撲滅しなければ、魔界も天界も滅び、そして人間界も滅びるアル。奴らの目的はすべてを無にすることアル。それを阻止するには力がいるアル」


「力ねえ…」


俺は意地の悪く、自分の方からは言葉をはぐらかす。気の強いランジェに言わせないと今後の力関係に影響がある。


「魔王の力で覚醒された側室の力は、天界の将軍以上だ。そこまでの力を得ようとするなら何十年も修練を積まなければならないが、側室になれば一瞬で得られる。悔しいが、天界にはそんな便利なシステムがない」


「天界の王は側室がいないのか?」


「バカ言うな!天界に王などいないアル。政事は貴族の代表からなる元老院で話し合いで決めるアル。例え、王がいたとしてもそんな好色な王を天界が戴くはずがなかろう」


「なるほど…それで正義感あふれるランジェ隊長様は、正義のため、そんな好色な魔界の王に体を差し出すというわけか…」


「な…何をいうアルか!体を差し出すなどと…エロいことをいうなアル」


「いやあ、残念だな。じゃあ、ランジェ隊長はカオスの王になるかもしれない残りの3人を選ぶということで…」


まったく俺と言う奴は意地が悪い。押し黙るランジェの整った顔を見ているとむくむくとS気がわいてくる。


「そ…それは、ないアル。わ…わたしは…お前を選ぶアル!」


そう叫んで顔がみるみる赤くなるランジェ。耳たぶまで真っ赤になる。

これはとどめを刺すべきだ!と心の俺が叫ぶ…。


「じゃあ、ランジェちゃん、ちゃんとお願いしなくっちゃ」


「お…お願いだと…」


「そう。お願い。魔王様に向かって(抱いてください。ランジェをあなたのモノにして…って)って、言わないと俺、やる気がでないなあ…」


実のところ、もうやる気満々なのであるが、ここはランジェの奴に自ら言わせることで征服感を味わいたいと心の魔王が俺に命令する。


「そ…そんな恥ずかしいこと言ないアル!」


「え?リィは言ったけどなあ。魔王様、リィを抱いて、めちゃくちゃにして~って」


「リィが?」


ランジェは急に黙り込んだ。ライバルのリィが言ったなら自分ができないととはいえない。現にリィは魔王に覚醒されて今は自分よりもはるかに強くなっている。


「わ…わかったアル…言うアル…」


顔を真っ赤にしてモジモジしているランジェは、意を決したように両手を胸に当てて、消え入るような声で言った。


「魔王様…ランジェを抱いて…」


「聞こえないなあ…」


どこまでも狡猾な俺。完全悪の魔王様モードだ。


「う~っ…ランジェを抱いて、愛して、めちゃくちゃにしてアル!」


「よっしゃ!」


俺はランジェを抱きかかえるとディープなキスをする。ランジェはもう決心したのか、それを受け入れる。たちまち体が光り、覚醒が始まった。予想通りのナンバー2の文字が手の甲に浮かび上がる。だが、お楽しみはこれからだ。小柄なランジェをキスしながらベッドに運び、ポンと放り投げる。(きゃ…)とランジェが声をあげる。生意気な天界の戦士もこうなってしまえばただの女の子だ。


「めちゃくちゃ…とか言ったけれど…あの…初めては優しくしてほしいのアル…」


「任せとけ!」


ベッドのランジェめがけてダイブ!あのランジェとムフフ…なことを…いや、ランジェは体型はちょっと犯罪的だがれっきとした大人。自分よりもかなり年上である。倫理上は問題あるまい。なにしろ、これは魔界と天界と人間界の命運が…


「お楽しみ中悪いが、魔王様」


聞きなれた声が俺を現実に引き戻した。その高飛車な感じの物言い…言葉尻には悪気が100%含まれているその言い方。


「親友のランジェもモノにして、これでナンバー1,2,4,14と戦力も充実したとはいえ、何だか面白くない」


すらっとした足に抜群のプロポーションのダイナマイト悪魔令嬢…リィ・アスモデウスその人だ。


「や、リィ、お前、今日は夏妃の教育じゃ…」


「忘れ物をしたので、御台様の部屋に取りに来たところだ。そうしたら、お前がランジェを連れ込んで、浮気している現場を抑えたというわけだ」


「いや、浮気って…まだ、キスしか…」


「私がいつ(抱いて!めちゃくちゃにして!)なんて言った?」


リィの奴、俺がランジェを口説いていた時からいたらしい。これは恥ずかしい。

だが、めちゃくちゃにして…とは言わなかったが、リィと関係を持った日のことはお互いに知っているから、その時のセリフを思い出してリィも急に顔が赤くなる。まったく、この派手なお姉さんはこういうギャップがたまらなくいい。


「と…とにかく。目の前でいかがわしいことは慎んでもらおう」


リィはそっとシーツをランジェにかぶせて、


「ランジェ、これでお前も私たちの仲間だ。長年のライバルだったが、これからはよき戦友だ。こいつを巡ってはライバルだけどな」


そう言って、俺の耳をぎゅっと引っ張った。


「いててて…」


「ランジェといい、カミラといい、お前の守備範囲は無限か?」


「いや、そういうわけでは…」


「まったく、節操のない奴め!」


ことの成り行きにとまどっていたランジェもやっと立ち直り、いつもの元気なランジェに戻ってしまった。


「これで私も側室として覚醒したアル。カオスとの戦争では力が発揮できるアルな」


「いや、ランジェさん、本当の力が出せるのは身も心も捧げなきゃ…、いてて…」


リィの奴がまた俺の耳を引っ張る。そして耳元に口を近づけて、


「夏、あんな貧弱な体のどこがいいのだ。望むなら、今晩、お前のベッドに忍んで行ってやるぞ」


とささやき、大きな右目をパチリ…と閉じた。


こうしてカオスとの戦に向けての陣容が整った。14人+1…


過酷な激闘の日々が始まろうとしていた。


魔王様と16人のヨメ物語…激闘モードに続く。


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