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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
覚醒モード
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夏と体育祭

 生徒会VS裏生徒会の体育祭決戦の日がやってきた。大会は午前中のオーソドックスな個人競技、午後には生徒会が企画した工夫を凝らした団体競技がある。個人競技は戦力が拮抗するだけに一進一退の攻防。午前中の競技を終えて白組245対赤組250とわずか5点差。勝負は午後の団体競技に持ち越された。


「意外に白組やりますねえ。源元馬のカリスマ性は会長と違うタイプですが、なんとか力になりたいと思わせる何かを持っているということですかね。」


イズルは外した眼鏡を拭きながら、昼食の食べ物をつまんだ。中庭に会長の隆介、副会長のイズル、書記のめぐる、会計のひかるが丸くなって囲んでいる。料理は隆介が手配した5つ星フレンチレストランのオードブルから、老舗の寿司屋から届けさせた握りずしなどが並ぶ豪華絢爛の食事であるが、夏が作ってきたおにぎりやから揚げなどのおかず、様々なチョコでコーティングされたMブランドのドーナッツも並ぶ。


「まあ、こちらも会長のカリスマに魅せられてがんばっているわけですが、4つの団体競技の点は大きいですから、どちらが勝つかはわかりませんね。」


1年生の新堂ひかるが無邪気に語る。めぐるは、先ほどから黙りこくって食事している会長の隆介が不機嫌そうな理由を考えていた。イズルもひかるもこの雰囲気を変えようと話しかけているのだが、当の会長が反応しないので白けた空気が漂い始めている。

不機嫌の原因は、隆介がプロの作った料理には目もくれず、夏の手作りのおにぎりやおかずを食べていることからも分かる。


(ドーナッツちゃんがいないからね・・。)


いつもクールな会長が、ここ数日二人の様子がおかしいのは女の勘で分かった。夏が傍にいると機嫌がいいが、どこかに出かけるととたんに短気になる。


(まあ、いつかこうなるのは分かりきっていたけど・・・。やっと会長も自覚してきたみたいね。でも、お姫様はいつまでも待っていないぞ。)


そう、夏は持ってきた料理を並べると自分はちょっと用事が・・と言って姿を消したのだ。

手におにぎりとおかずが入ったタッパーと紙袋に入ったドーナッツを持っていたから、誰かに届けることは間違いない。その誰かは・・。めぐるが想像するまでもなく、皆さん分かっているだろう。


「あの、源くん」


ここまでの健闘をたたえ、チームメートと談笑をしていた元馬は、恥ずかしそうに声をかけてきた夏にものすごく緊張した趣で応えた。


「あ、ああ。夏さんか。ち・・調子はどう?」

「あの、お昼ごはんはどうかな?と思って、あの・・おにぎりとおかずたくさん作ったから、おすそ分けに」

「おう。サ・・サンキュー」


手渡しでちょっとだけ指が触れる。あのアパート以来の対面なので思い出すと二人とも照れてしまう。夏は元馬にそっと包みを渡すとくるっと背を向けて走り出した。途中、止まると振り返り、満面の笑みで、


「午後もお互いがんばりましょうね!」


と叫んだ。それを見つめ、思わず右手を挙げる元馬。周りにいた男子生徒たちは、


「おいおい、どう思う」

「なにが」

「元馬さんとドーナッツちゃん、いい雰囲気だよな。」

「ああそう思う。あんな元馬さんのだらしない顔見ないもんな。ありゃ、完全に魂を抜かれているぞ」

「この競技に元馬さんが勝つと元馬さん、ドーナッツちゃんと付き合えるんだよな」

「俺、何だか応援したくなってきた。元馬さんのためにがんばるぞ!」


おーっ!と団結を高める取り巻きの男子生徒たちであった。


走りながら、俺は心の中にいる女夏に話しかける。


「おい、女夏」

「なによ」

「おまえの言ったとおりにしたけど、隆介から元馬に乗りかえるのか」

「はあ?ふざけないで。両方に粉かけているのよ」

「面倒だな。数字の刻印を見つければいいんだろう。二人の着替えをのぞくとか、無理やりシャツ脱がせるとか、いろいろやり方はあるだろう」

「だから、そんなはずかしいことできないよ」

「俺がやってやるぞ。キ・・キスなんかで確かめるのはなしだからな」


この間、危なく隆介に唇を奪われそうになったが、あのままやっておけば、事態は動いたのは確かだ。少なくとも隆介が魔王かどうかは分ったはずだ。あの時はキスしなくてよかったと思ったが、今から思えば男とキスという屈辱を乗り越えてやればよかったのだ。


(なんなら、元馬を誘惑してキスしちゃう手もある。この際、男に戻るためにはこの屈辱を乗り越えるしかない。)


そうじゃないと立松寺とのラブラブ生活は当分お預けとなる。リィはこの体育祭で勝ったほうが魔王とか言っていたが、勝とうが負けようがいいじゃないか?などとも考えていた。


(まあいい。それより、今度は俺の用事の番だ。)

(仕方ないなあ。)


今度は俺の意思で別のところへ向かう。もちろん、立松寺のところだ。立松寺はこれまたおいしそうな手作りお弁当を広げて、待っていてくれた。


「り・・立松寺・・ごめん」

「ううん。今、準備できたところだから」


うあああ・・・可愛い。あの立松寺がお弁当を作ってきてくれて、一緒に食べるなんて!

おいしそうにおにぎりをほおばり、玉子焼きにたこさんウインナーをかきこむ夏を立松寺は愛しそうに見て、水筒から熱いお茶を注いだ。はい・・と言って夏に渡す。それを受け取る時に指が触れ合う。思わず俺はコップごと立松寺の手を握る。見詰め合う二人。


「ねえ、ねえ。あの二人」

「うああ、手なんか握って」

「やっぱり、立松寺さんとドーナッツちゃんて、付き合ったりして」

「ええっ・・女同士で・・いやだあ」


その黄色い声でまたもや現実に引き戻される二人。


(ううう・・早く男に戻りたい。戻って、お似合いの二人なんて噂されたいものだ。)


午後の部が始まった。

女だらけの「コスプレ綱引き」

高校でこんな卑猥ひわい?な競技が許されるか?少々疑問だが、自由と自制心を校訓にするこの乙女林高等学校では、生徒の自主性に任されている。もちろん、コスプレも教育上許す範囲での・・ということで、白組は巫女さん姿、赤組は動物の着ぐるみ姿である。もちろん、その手の方々に喜んでいただけるよう、巫女さんは袴が少々短くというより、八百万の神様も鼻血が出てしまいそうなありえない短さ。短い袴と称するミニスカと白いニーソックスの間にある絶対ライン・・・。特にダイナマイトボディのリィの姿はイケナイ度150%、男子生徒はもう釘付けである。対する赤組は動物の着ぐるみといっても、もこもこのショートパンツに同じ生地の半そでシャツ。おへそが出ているのがミソ。手と足にはそれぞれの動物の手足を模った手袋に靴。尻尾に頭には耳まで付いている。セクシーさでは白組に負けるが、可愛さ100倍である。夏はトラをイメージした縞柄、立松寺は猫、めぐるはお猿さんの格好である。


「土緒くん、生徒会って真面目な集団のはずなのに、この競技はなんなの。」


立松寺は不機嫌そうだ。だが、猫のコスプレをしているから怒った顔もまったく可愛い。


「立松寺さん、これは体育委員会からの持込企画なので、生徒会とは関係ないデース。」


めぐるがおサルさんの格好で言う。まあ、この格好は彼女の性格にあっているといえば合っている。だが、この格好では言葉の説得力は若干落ちる。


「まあ、いいんじゃないの?私は立松寺のこんな可愛い姿が見られるだけで幸せ。」

「もう、エッチね。土緒くん。」


真っ赤になる立松寺。ヤバイ・・この可愛さは反則である。思わず、フラフラと抱きしめそうになる。だが、その俺もトラコスチュームで周りの男子の視線を集めている。この格好で立松寺を抱きしめたりしたら、それこそ「ゆり」の世界へようこそ!である。


(た・・耐えろ・・・土緒夏!)俺は自分に言い聞かせた。


そう自制心を呼びさますように天を仰ぐ俺の姿は、長い足にトラ柄のブーツ、小さめのお尻にはトラ柄ホットパンツ。上半身がTシャツの代わりにビキニで耳の代わりに角をつけたらアニメの世界の住人になりそうだが、あくまでもトラである。


「うあああ・・見ろよ、ドーナッツちゃんの格好。可愛~い。」

「あのおへそ出ているところがいいよな。やべえ、夢に出てきそう。」

「隣の立松寺さんとめぐるちゃんもいいよなあ。」

「俺はやっぱり、リィ様。外人で巫女さんは反則。リィ様~。」


じろじろ見ながら勝手なことをいう男子。だが、つい先日まで俺も同じ仲間であったことは事実。そうなると・・。健全な男子高校生の行動はただ一つ。


(うあ~、俺、今晩、野郎どものオカズになっちゃいそうだ。畜生、せめて、立松寺だけでも・・。)


そっと立松寺に寄り添う。奴らにこの姿を見せてやるものか!だが、ピタッと寄り添う美少女2人。ますます違う意味で注目を集める。

コスチューム以外、ルールはいたってシンプルである。綱を引っ張りこめば勝ちである。


(ここは勝たないととは思うが・・リィの奴しだいだよな。)


もし、生徒会が負けたらどうなるのか?元馬は夏と付き合う宣言をしたものの、夏もモノじゃないから彼女自身の意思と言うものがある。すんなり鞍替えするわけがない。が、負けた方が事態が動くような気がする。これまでの様子から隆介が何かアクションを起す。逆に生徒会が勝てば、元通り。邪魔な元馬は排除。元のまったりとした関係に戻る可能性もある。昨日、キスしそうになったからあのような関係に戻れるかは微妙だが。

 

競技が始まった。巫女さんとアニマル軍団の壮絶な縄の引き合い。俺も一応、力を出して引っ張るが、所詮は女の力だ。大した貢献はできない。参加している女の子たちも可愛い格好をしているから、必然的に必死に引っ張らない。いかに可愛く引っ張るか。気になる男子が自分のことを見ているかもしれない。

だが、終了寸前、引き分けか?と思ったときに一瞬、ものすごい力で引き寄せられた。動物軍団はみんな転んで引きずられる。


(リィか!あの野郎・・。)


あいつは人間の女の姿をしているが、正体は魔界の大悪魔の孫娘。こんな綱引きなどちょっと力を入れれば問題ない。リィは完全に勝ちにきている。


(リィの奴、元馬にこれだけ加担したら、隆介が魔王でも勝ってしまうだろ!)


俺はリィの奴をにらんだが、リィは涼しい顔で無視する。


(リィには考えがあるのよ。)

(どんな考えが?)

(もし、橘くんが魔王なら劣勢に追い込まれても奇跡の大逆転を起すはずよ。逆に源君が魔王なら魔界の力を自然に使って勝ったということよ。)

(リィの加勢も魔王の運命・・必然ということか。)


2回戦も簡単に動物軍団は引き寄せられ、最後はもみくちゃ状態。俺なんかは転んだ拍子に前にいた立松寺の足の間に顔が来てムフフ状態。ついでに思わずグイと掴んでしまったのはめぐるの小さな胸。その他女子の体にもみくちゃにされる。男だったら超ハーレム状態である。立松寺にこのだらしない顔を見られたら確実に殴られるだろうが、みんなごちゃ混ぜだからまったく分らない。(よかった~。)

元馬は勝って帰ってくる女子選手を労い、リィが来るとポンとハイタッチをする。

隆介はというと顔色一つ変えていない。ある意味大物だ。


 綱引きは裏生徒会の白組の勝ち。このポイントが10点。255対250で白組が逆転した。白組は俄然盛り上がる。次は「男子肉弾棒倒し」。言葉だけ見るとこれもなんだが、卑猥な感じがするが、れっきとした棒倒し競技。赤白の陣営に立てられた長さ5mほどの3本の棒を地面に倒せば勝利である。棒を持ち守るチームと相手の棒を引き倒す攻撃チームに分かれて多少の殴る蹴るありの激しい競技である。この競技は男子限定だから、夏たちは応援するしかない。バカ力のリィも出られないから競技に悪影響は与えないはずだ。


「これに負けると15点差がつく。さすがにやばいよ。」

「俺たちのドーナッツちゃんが、あの元馬の彼女になっちゃうのは嫌だよな。」


赤組男子たちは、土緒夏と源元馬が2人で仲良くデートしている姿を想像して身震いをした。


(くーっ・・あいつだけにはそんなうらやましいことさせねえ。)

「いくぞ!」

「おおおおおっ!」


何だか勝手に士気が上がっている。

夏はそっと隆介の下に行く。もちろん、励まして心象をよくするためだ。


「あの・・橘くん、がんばって」


隆介は先ほどの昼食時のことが頭にあったのだろう。少々、ぶっきらぼうに、


「ああ」


と言ったきりで沈黙が流れる。(うあああ、男の嫉妬だよ。これは・・。)


「お前、あっちには行かなくていいのか?」


ひどく冷たく隆介が白組の方を指差す。(えっ・・。)

ドクン・・心臓が鳴る。俺はここは「フラグ」が立つと認識した。答えを誤まると隆介の愛情を高めるどころか、冷めさせてしまう危険を嗅ぎ取った。

(ここは涙だ!涙しかない!!)そう思うと大きな瞳に涙を浮かべる。女はここぞと言うときにはなぜだか涙が出るもんだ。


「ひどい・・。橘くん。源くんとは何でもないのに。ひどいよ」


隆介は慌てて、


「ご、ごめん。ちょっと意地悪だった。ごめん」

「今日負けたら、私は源くんとお付き合いするなんて全校の前で約束しちゃったけれど、本当にいいの?」

「負けないさ・・・。俺は負けない」

「橘くん。私、信じてるから・・・」


うううう・・いいね。このラブストーリー。俺は内心ほくそえんだ。隆介ラブは本物だ。


(だが、ごめん・・隆介。俺はお前のことなんとも思っちゃいねえ。俺は立松寺一筋。お前が魔王の可能性が高いことが分れば、キス一発で目ざめさせてやるぜ。その後、その魔王を倒せば・・。)


(ふん、そんなことさせないわ。)女夏がつぶやく。


「けがしないようにね。」


そういうと俺は右手を挙げた。隆介は軽くパチンと合わせる。


赤組リーダーの生徒会長、橘隆介はこの競技、棒倒しについて明確な作戦案を持っていた。それをみんなに伝える。3本の棒はそれぞれ、1年生、2年生、3年生が守っている。攻めるのは自由だが、なんとなく1年生は1年生の陣地へ、2年生は2年生の陣地へ攻め寄せる。正面に対峙しているからそうなるのだが、隆介の作戦は簡単だった。3年生は2年生を攻め、2年生は1年生、1年生は3年生を攻める。棒は2本倒せば勝ちだから、相手の3年生の棒は倒せないが、力関係から言えば2年生と1年生の棒は早く倒せるはずだ。

 ピストルの合図で競技が始まる。まっすぐ直進する元馬は、赤組の攻撃チームがクロスして異学年の陣地に攻め寄せたのに驚愕した。(アノ野郎~ずるい手使いやがって)と思ったが、ルールで禁止されているわけではない。守り側と互角の勝負を繰り広げている白組に対して、赤組は圧倒的な有利な立場と


「ドーナッツちゃんは渡さないぞ~。うおおおおっ・・」


と叫ぶ土緒夏親衛隊の男子どもの活躍もあり、たちまち守りの生徒を蹴散らし、1年生と2年生の2本の棒を引き倒す。


「うああ。鮮やか。これだけ見ても隆介の方がリーダーとしては一枚上手だな」


黄色い声を出して応援しながら一部始終を見ていた俺はそうつぶやいた。


「でも、源君も個人的に見るとすごいよ」


立松寺が言うとおり、確かに攻め側に回った元馬は、迎え撃つ守備側男子生徒をなぎ倒し、蹴倒し、棒を守る集団の頭に乗って棒にしがみつき、ついには2年生の棒を引き倒した。その姿、まさに鬼神のごとく。その豪傑ぶりに同じチームのリィすら、思わず見とれてしまう。


(彼が魔王様なら、私は好みだ・・。隆介のような知将タイプもいいが、元馬のような勇将もまた魅力的。無論、魔王様であるならだが・・)

「女夏さんは、どちらが好みなの?意外とああいう力強い殿方もいいでしょ。」


立松寺がそう俺の心の中の女夏に話しかける。


(そうなのか?女夏)俺はたずねる。


(知らないわ・・。)と言いつつ、鮮やかな勝利を収めみんなに肩車される隆介よりも悔しがる元馬を見ている女夏。その目・・まさにヨメの眼差し。

(こりゃ、揺れているなあ。元馬ポイント1ゲット!ってことか。隆介、うかうかしていると、おまえ、俺に振られるぞ。)


2回戦はまたもや隆介の作戦が光った。スタートと同時に1,2年生の攻め手は合流し、2倍の戦力で、白組1年生の棒に襲い掛かった。たちまち粉砕される1年生の棒。さらにその勢いに乗って2年生の棒に襲い掛かる。元馬が自ら赤組3年生の棒を引き倒した時には、3倍の攻撃陣の突撃に崩れ倒れる白組の2本目の棒が視界に映ることになった。


「わあ、かっこいい生徒会長~」

「赤組男子もがんばったねえ」


俺はめぐるや立松寺たちと凱旋してくる男子にハイタッチをする。


「うおおおっ・・ドーナッツちゃんの手に触ってしまった!」

「俺なんか、ドーナッツちゃんに声かけてもらったぜ」


ちょっと微笑むだけで、張り切る赤組男子ども。まったく単純な奴らである。

これで赤組10点プラスで赤組再び5点リード。次は男女混合の騎馬戦だ。騎馬戦は男子3人で作る騎馬に女子が一名乗る。時間以内に相手を全滅させるか、大将を倒せば勝ちとなる。もちろん、赤組の大将は夏。騎馬は隆介、イズル、ひかるの生徒会メンバーだ。白組大将はリィを乗せた元馬の騎馬が務める。格好は先ほどのコスプレのままだから、リィは巫女姿にキリリと鉢巻。夏はトラ娘で赤い鉢巻である。


「夏には悪いが、この勝負は負けられない。リィ、狙うは大将の夏一騎」

元馬は白組メンバーに激を飛ばす。この競技で勝たないと苦しくなる。だが、彼の擁するリィ・アスモデウスは留学生の女子学生に化けていても本来の姿は、悪魔だから、並みの力ではない。騎馬戦では赤組の女子をバッタバッタとなぎ倒す。騎馬が当ったところで、リィが押せば上に乗った女子なんかは軽く落ちる。たちまち、夏の騎馬までたどりついた。


「隆介~もらったぜ」

「させるか!」

先頭の元馬と隆介がぶつかる。頭と頭をぶつけ、一歩も引かない。


「御台様・・・悪いがゲームをおもしろくしないといけませんので」


リィの手が夏の体を押そうと近寄ってくる。だが、突然、時が止まった。


(バトルエリア展開?バカな、誰が・・)


バトルエリアとは人間界において異世界の者が戦闘行為等に及ぶときに展開する空間のことで、人間にはこのエリア内で行われたことは見えない。その時だ!リィの目には一筋の光の矢が夏の心臓めがけて飛んでくるのが映った。


(マ・・マジックミサイル!御台さま・・ダメだ・・避けられない!)


光に胸を貫かれ、倒れる夏の姿を想像する・・。だが、夏を支える先頭の隆介ががくっとひざを着いた。これにより夏の体が沈み込む。光の矢は夏の右肩をかすめる。ふいにバトルエリアが解除された。止まっていた風景が動き出す。夏はトラのコスチュームが破れ、はらりと上半身がはだけるので慌てて胸を押さえる。このハプニングに全校中の男子が注目する。たぶん、彼らには突然、服がはだけておっぱいが見えそうになっているというおいしい事件としか認識していないであろう。若干、肩の柔肌から鮮血が飛び散りながら俺は完全にバランスを崩す。


「きゃああああ・・。」


思わず、悲鳴をあげてしまう俺。だが、痛みよりも落ちるなら可憐に落ちないと・・・と一瞬思ったが、その思いとは別におマタおっぴろげで落ちてしまう。両手は胸を意地でも隠しているから、地面に叩きつけられるはず。と思った瞬間に二人の男の腕に支えられて地面に落ちた。上半身は隆介、下半身は騎馬を崩しながらも飛び込んで来た元馬。よりによって、足と足の間に元馬の顔が・・・

ついショックで足を閉じたから、必然的に元馬の顔を太ももで挟んでしまう。


「うあああああ・・。」


元馬の慌てた声。


「うきゃあああああ。」


俺の叫び声。しなくていいサービスをしてしまった。二人とも顔が真っ赤である。隆介はというと少し不機嫌そうに夏を抱き起こす。


「ケガは大丈夫か、夏」

「うん・・ありがとう。橘くん、源くん」


一応、隆介と元馬にお礼を言う。元馬は照れ隠しか、


「腰を打つと将来、赤ちゃんが産めないからなあ・・」


と微妙なセクハラ発言。だが、こいつが言うと妙に説得力がある。しかし、あの光の矢は何だったんだ・・。もし、隆介がバランスを崩さなければ心臓を貫かれていた。肩をかすめた威力からして、たぶん、恐ろしいことに死んでいたに違いない。


(どうして、騎馬戦で本当に討ち死にせねばいけないのか!)


冗談じゃない。肩に受けた傷から血が流れる。と騎馬を組んでいた新堂ひかるが自分のシャツを脱いで夏の肩に羽織らせた。


「ぼくのは競技前に新品に着替えたから、まだ汚れていません。保健室まで羽織っていてください。先輩・・」

「あ、ありがとう・・」


そうお礼を言った俺の目に新堂ひかるの上半身の裸体が映った、首の下のところに「8」の数字のようなあざを・・。


(えっ・・8・・うそ!)

(パシリの後輩が魔王?)


隆介に抱きかかえられるように保健室に連れて行かれる俺は呆然となった。


リィは光の矢が放たれたと思われる校舎屋上に走った。そのスピード、まさに悪魔の如し。

そこには小学生姿のエトランジェがいた。彼女も今到着したといった感じだ。


「ランジェ、犯人は見たのか?」

「いや、私がここに来た時にはもぬけのカラある。」


天界の住人と魔界の住人は基本、敵同士であるがリィにはエトランジェが夏を殺そうといしたなんてこれっぽちも思っていない。魔王のヨメである土緒夏は人間であり、天界の人間は人間を殺すことはできない。それは天界の絶対ルールであり、掟である。現に魔王候補の男子生徒には、魔王として覚醒するまでエトランジェは手出しができないから、何のアクションも起せない。魔界はどうか。自分は魔界の代表として魔王とヨメである土緒夏を守る立場である。そしてこの行動は魔界の主流派である祖父による指示である。だが、魔界の反主流派にとっては、人間界の魔王は覚醒しない方がいいのだ。魔王を覚醒するというヨメを殺せば、それこそ危ない橋を渡らずにすむ。覚醒された魔王は強力な力があるが、ヨメの方は人間の小娘に過ぎないからだ。


(ちっ・・厄介なことになった。あの小娘まで本当にガードしないといけなくなるとは・・)


リィは屋上から、運動場で競技を続ける小さな人間たちを眺めながら思った。


「リィ・・・お互い私たちの任務は、簡単なものではないあるな・・。」


エトランジェはそうつぶやいた。


「そりゃそうだ。私は魔王様を守り、お主は場合によってはその魔王様を倒す。不倶戴天の敵同士ではあるが、魔王様を倒す敵が魔界の者なら、我々には共通の敵。覚醒前の魔王はまだ人間。お前は人間を害す魔界の住人は見逃すわけにはいくまい。」

「複雑アルな・・」


エトランジェは雲が厚く覆った空を見上げた。

ポツリポツリ・・・と雨滴が落ち、突然、ものすごい雷雨となった。体育祭は最終種目を残して中止にせざるをえなくなった。まるでこの後の展開を暗示するかのように・・。


リィによれば、今回の襲撃は魔界の過激派の仕業らしいということだ。魔界の秩序を乱し、自分が牛耳ろうとする勢力があるらしく、転生する前の魔王を倒そうと試みる奴らがいるらしい。中には魔王には適わないから、魔王を覚醒させるという正妻候補を亡き者にしようと試みるものもいるという。


(おいおい、俺は人間だぞ。魔界の刺客なんかに襲われちゃ、命がいくつあっても足りないぞ。)


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