カルマの想い その2
ホテルの玄関を出た時にばったりと出会ったカップルを見て、俺もカルマも硬直した。偶然なのか、それともカルマを探してなのか、そのカップルは一柳宗治、暴虐の魔王その人と、その正室、土緒夏妃、一応、姉というポジションの女性だ。宗治はホテルから出てきた許嫁の破れたブラウスを見て、俺をにらみつけた。
(ちょっと待て!誤解だ、先輩!)
俺は心の中で叫んだが、彼のすさまじい怒りのオーラによるプレッシャーで声にならない。
夏妃は夏妃で、
「夏、いくら側室が必要と言っても、見境なく覚醒させるのは魔王としての品位を落とします。宗治先輩の許嫁さんに手を出すなんて!」
火に油を注ぐようなことを言う。この二人、カルマが宗治の冷たい態度で泣きながら去ったことを聞いた夏妃が宗治を説得して、彼女を探していたらしい。そして偶然、通りかかったところでホテルから出てきたカルマと夏を発見したのだ。状況的に俺はカルマとやることをやって出てきたと思われるわけだ。
だが、そんな誤解もカルマが打ち消した。
「誤解よ、宗治。私は思い違いをしていたわ。あなたについていくために他の魔王に覚醒してもらおうなんてバカだった。夏くんにそう諭されたの」
「カルマ…」
「これが証拠よ!」
そう言うと、カルマは宗治に背伸びをして口づけをした。ふいのことでさすがの暴虐の魔王もかわすことはできなかったのであろう。二人は光に包まれ、カルマは宗治の側室として覚醒した。序列は6位。その証拠である数字の痣が彼女の右腕に現れた。宗治とのキスで覚醒したということは、俺はカルマを抱くはおろか、キスすらしていないということが証明されたわけだ。無実がはれてよかった!
「宗治、いや、今からは陛下とお呼びします。私は側室としてあなたにお仕えします」
「カルマ…俺はお前を巻き込みたくはなかったのだ。お前はこの人間界で別の男と幸せに暮らせばよかったのに、あえて修羅に踏み込むとは…」
「怖いところでも、陛下、あなたがいるわ…」
正確に言えば、宗治には夏妃がいるし、蝶子にカテルもいる。だが、カルマは心に決めた。宗治の元で彼の役に立ちたいと…。
実のところ、宗治もカルマの能力は買っていた。前魔王の側室で高位であったカテル(現在は5位)に次ぐ序列の高さがそれを裏付けている。だが、一方的に慕ってくる藤野蝶子や戦力として欲したカテルとは違い、カルマは幼馴染で婚約者であったから、夏妃との関係を考慮して選ばなかったのだ。だが、彼女の思いと夏妃の説得で考え直したのだった。
宗治はカルマの両肩に手を置いた。
「これだけは言っておく。魔界に行けば、俺が一番に守るのはお前ではなく、夏妃だ。それでもお前は俺の側にいるのか?」
カルマは宗治の後ろに立っている土緒夏妃をちらりと見た。不思議と嫉妬心がわかないのは、彼女が自分の使えるべき正室であることを自覚してのことだろう。
「分かっています。私は私の身を守ることはもちろん、陛下のお役に立ちます。私は1番でなくていい。陛下の側にいられれば」
そういって宗治の胸に顔を埋めた。
「これで一件落着と言うわけか。姉貴は旦那に愛人がどんどんできても嫉妬とかしないのか?」
俺は宗治先輩の後ろで2人を見ている夏妃にそう聞いてみた。
「嫉妬も何も…私自身が3人の夫を持つ身ですもの。それに側室は魔界にとっても必要な人材だわ」
「姉貴は心が広いなあ…」
俺はため息気味にそうつぶやいた。夏妃のことは自分が一時、彼女に同化して同じ体を共有する身であったので、よく分かっている。容姿に反して意外としたたかで腹黒い奴だったのだが、今は聖母様はこうだ!と言わんばかりの態度だ。魔王の正室になって性格まで変わってしまったのであろうか?
同じ正室でも立松寺はまったく変わっていない。気が強く、言葉もストレートである。だが、きついことを言ってもちゃんとフォローする気遣いと優しさがある。女子らしく手弁当を作ってくるかわいらしさもあるから、俺は完全にはまっているのだが…。
これで16人中、14人が確定した。
あと2人…である。




